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認魂レポート

第2回テーマ : 介護サービス利用中の 「帰宅欲求」にどう対応するか?

参加者:

【介護職】佐藤絵美6 荘司聡美1、庄司俊彦9、高橋芳雄9、多田紀美子1、土田友美4、富樫亜希子2徳長英人4永井晴夏5、中野智佐子3原島哲志9
【看護師】板垣照子9
【介護支援専門員】塚原美穂7、渡辺美佳子9
【作業療法士】川瀬敦士9、皆川尚久9
【薬剤師】竹田暁8
【医師】川瀬裕士9
【認知症地域支援専門員】川瀬弓子9

介護職・訪問介護員・生活相談員・・・以下「介」
介護支援専門員・・・以下「CM」 作業療法士・・・以下「リハ」
看護師・・・以下「看」 薬剤師・・・以下「薬」
認知症地域支援専門員・・・以下「地域」

1)うらだての里デイサービス(以下「デイサA」)
2)はあとふるあたごデイサービスセンターさかえ(以下「デイサB」)
3)デイサービスセンターさんじょう社協(以下「デイサC」)
4)はあとふるあたごグループホーム三条(以下「GH」)
5)特別養護老人ホームおおじまの里(以下「特養」)
6)ジャパンケア三条(以下「訪介」)
7)愛幸堂ケアプランセンター三条(以下「居宅」)
8)メッツ嵐南薬局(以下「薬局」)
9)川瀬神経内科クリニック、デイケア、ショートステイ、サービス付き高齢者向け住宅(以下「川瀬」)

 


 

氏  名(所属,職種)

川瀬敦士(川瀬,リハ) 只今より第2回認知症疾患医療センター認知症研修会認魂を開催いたします。本日の司会を担当させていただきます、リハビリ科作業療法士の川瀬敦士と申します。どうぞよろしくお願いいたします。それでは開会挨拶を当院副院長よりさせていただきます。

川瀬裕士(川瀬,医師) 皆様、第2回目の認魂の研修会にお越しいただきありがとうございます。1回目を昨年2015年11月に開催し、この地域で普段、認知症の患者様に接していて色々な経験も持っていらっしゃるプロの方々に集まっていただきました。前回のテーマは通所系サービスに「行きたくない」にどう対応するかでした。第1回のレポートが川瀬神経内科クリニックのホームページにありますので是非ごらんください。今回は「帰宅欲求」をテーマに、サービスに来ることはできたけどもすぐに「帰りたい」となってしまう人について話しあってみたいと思います。本人の意向に沿いながらどのようにケアしたら良いのか、その点を探りながら、皆様から活発なご意見をお願いいたします。


川瀬神経内科クリニック 医師 川瀬裕士 氏

川瀬敦士(川瀬,リハ) さて、今回のテーマは介護サービス利用中の帰宅欲求「帰りたい!」にどう対応するか?ですが、デイサービス、デイケア、ショートステイ、高齢者施設などから自宅などに帰りたがったり、外に出て行こうとしたりするということですね。対策を立てる際の意義としては、入浴・食事などの生活介護を提供する、身体・認知機能に対するリハビリを提供する、社会交流の機会を提供する、安心かつ安全な住環境を提供する、家族の介護負担を減らす、などが考えられます。帰りたいと言っているご本人の声や気持ちとしては、次のようなことが考えられます。(図1)

: 本人の声・気持ち

・疲れた。帰って寝たい。
・家に帰りたい。(今の家もしくは昔住んでいた家)
・ここに居たくない。(この場所は嫌)
・今の自分ではなく、若い頃の自分に戻っている。
(自分が最も生き生きと生活していた時代)
(女性は、家に帰って家族の食事の用意をしたいなど。)
(男性は、かつての職場に行きたい。)

こういった当人たちの気持ちは想像できることかと思います。一方で家族の声や気持ち、その背景にあるものとして、次のような事が考えられます。(図2)

図2 : 家族の声・気持ち(背景)

本人が気持ちよくサービスを利用してほしい。
途中で帰ってきてほしくない。(自宅に)
電話がかかってこないように
プロなんだから、お金を払っているから、何とかしてほしい。
何が何でも行ってほしい。

それではここからは、事前に皆様から頂いたそれぞれのケースごとに検討していきたいと思います。


川瀬神経内科クリニック 作業療法士 川瀬敦士 氏

 

‐事例から‐ケース1【仕事に行かないと・・・】

川瀬敦士 それでははじめにケース1について話し合っていきたいと思います。このケースはデイサービスを利用している事例です。説明をしていただけますでしょうか。

多田紀美子(デイサA,介) はい、この方は男性でデイサービスに居まして、まだ若く(70代後半)、自分は現役で仕事をしていると思っています。デイサービスに来る(週2回利用)と、途中から「仕事に行かなきゃいけないから」ということで帰宅欲求が始まる方です。仕事の話を聞いてあげると落ち着きますが、本人から少し離れてしまうと「仕事に行くから」と怒って、玄関に向かってしまいます。


うらだての里デイサービス 介護職 多田紀美子 氏

川瀬敦士 はい、ありがとうございます。答えはなかなかすぐには出ないと思いますが、分からない事は質問していきましょう。良い対応策がすぐに思いつくという方は、言っていただければと思います。

中野智佐子(デイサC,介) どんなお仕事をされていた方ですか?

多田紀美子 代々、鍛冶屋の仕事をしていて、四代目の方みたいで、自分が引き継いできたプライドがあり、今は息子さんが継いでらっしゃるのですけども、「息子はまだ自分がいなきゃダメだ」と、思っています。

富樫亜希子(デイサB,介) ご利用の時(送り出し)、利用拒否とかはありますか?

多田紀美子 それは奥さんが上手にやってくれて、元気よく来られますが、途中で時間が空いたりすると、急に仕事のことを思い出して、お昼ごはんを食べた後とかも、「今、休憩が終わるから戻らないと」と言って、口腔ケアもなかなかしてもらえない感じです。

原島哲志(川瀬,介) ずっと帰るまで(帰宅欲求は)続きますか?

多田紀美子 気の合うご利用者さんと仕事の話をしていると、割と落ち着くんですけど、なかなか(その方のように)話が合う方がいらっしゃらなくて。職員と話をしますが、それがずっと続かないと、帰宅欲求が始まっちゃいますね。

原島哲志(川瀬,介) 話し相手がいないとダメなんですね。

皆川尚久(川瀬,リハ) その方の若い頃の趣味など何か作業をするということはありますか?

多田紀美子(デイサA,介) ダンスが趣味の方で、たまにダンスしてもらったりしますが、ちょっと足元が不安定で転びそうな感じです。本人はできると思っているので、「ダンスをしてみて」と言うと、喜ばれますが、それも長続きはしない感じです。

板垣照子(川瀬,看) 結構、お上手ですか?

荘司聡美(デイサA,介) (社交)ダンスの先生をされていました。

川瀬裕士(川瀬,医師) 一緒にダンスの話で、盛り上がったり、自分のやっていた仕事の話をしたりしている時は、結構いい気分なのですよね?

多田紀美子 そうですね。気分が良いです。

川瀬裕士 でもずっとそうしている訳にはいかないから、ちょっと目を離してしまうと怒ってしまうと。

多田紀美子 そうですね。話し相手がいなくなると、急に仕事モードに入ってしまって。

川瀬裕士 どういう風にしたら、ずっと1対1で付きっきりでなくても、気分を損ねずに居てもらえるか?ということですね。皆さんどうでしょうか?

庄司俊彦(川瀬,介)その仕事モードになっちゃったら、戻すのは大変ですか?

多田紀美子 ごまかしが、あまり効かなくて、怒ってくると手が付けられないですね。怒りそうになる前に話をして、持ち上げたりとかしています。

中野智佐子(デイサC,介) ダンスの音楽をかけて、雰囲気を変えるとかできますか?

多田紀美子 女性の職員と踊らせたりすると機嫌よくされるのですけど…。

中野智佐子 踊りはなかなか長く続かないですかね。音楽をかけるだけというのは難しいでしょうかね。


デイサービスセンターさんじょう社協 生活相談員 中野智佐子 氏

荘司聡美 集中して何かをやっていたり、お話をしていたりした時にふと我に返って「FAXが来ているから帰らないと」と言いますね。

原島哲志 一番何が困っていますか?例えば帰りたくても本人は帰れないわけじゃないですか。そこで暴れる、物を投げる、ものすごい暴言を吐くとか?

多田紀美子 暴力はないのですけど、暴言を吐く、怒るなどがあります。その状態が続いて、(その後)家に帰ると奥さんにも怒ったりして家でも困るようです。

荘司聡美 (興奮すると)何も耳に入らない感じになって、玄関にも突進していく感じです。

 

‐事例から‐ケース1【仕事に行かないと・・・】 # 手作業

川瀬敦士(川瀬,リハ) 興奮のところに行く前に抑えられればいいのですけどね。ダンス以外で何か打ち込める、集中できるものがあればいいのですが。手作業とか、よくあるパターンなのですけど。

多田紀美子 片目が見えない方で、それもあって玄関に突進し、物にぶつかったりとかして…。またプライドからくるのか、手作業をやりたがらないことがありますね。

川瀬敦士 なかなかむずかしいですね。そういう人がいたらどうしますか?原島さん。


川瀬神経内科クリニック 介護職 原島哲志 氏

原島哲志 そうですね。男性でいろいろ仕事をやってきた方も(自分の施設)でもいました。社長の方々、学校の先生とか。特別扱いされたお仕事を特別にお願いすると、うまくいったケースはあったと思います。その方も仕事をすごくしてきた男性の方で、事務仕事が得意で好きな方でした。そしてよく不穏状態になってしまうのでいつもスタッフが隣にいて、書き仕事をしていたのですけど、ある時、何気なく「今日の日付のページを開いてください」とお願いしたら、綺麗に開いて、あいうえお順に並べてくれたのですね。そういった何か特別な仕事らしいものがあるといいかなと思います。

多田紀美子(デイサA,介) ハンコ押しとかですかね。

原島哲志(川瀬,介) そうですね。例えば「息子さんからFAXが来ています」みたいな感じで、そのFAXに「ハンコ押し」とか、仕事内容が書いてあって、「お仕事をしてください」とお願いしてみるといいのかなと思いますね。

川瀬裕士(川瀬,医師) 女性の好む手作業と男性が好む手作業は多分違うのでしょうね。洗濯物をたたむとかいうのは、女性は多分家事として長くやっていたので、得意だったりする。ただ男性はそれをあまりやっていなかったから、それをやれと言われると、子ども扱いされたように感じてしまうかもしれないし、「俺がやる仕事ではない」となってしまうかもしれない。だから原島さんの言ったように、よりその人にとって仕事らしく感じるような何かがいいのですね。

原島哲志 例えば名刺の整理とか、わざとファイリングされているのだけど全部出して、「ちょっと入れ直してください」とか。案外ハマったりするかもしれない。

板垣照子(川瀬,看) すごく細かい塗り絵を、全員が集中してやっていることもありました。全員で集中できる共通作業のようなものをやってみるのもいいのかなあと思いました。今日は男性もやっていましたしね。


川瀬神経内科クリニック 看護師 板垣照子 氏

中野智佐子(デイC,介) 男性はなかなかしないですよね。珍しいですね。

板垣照子 どんなものに興味があるか、手探りで試し試しやってみて、「この人はこれに興味があるのだな」と見つかってくればいいかなと。

川瀬敦士(川瀬,リハ) 手作業ということで、同じような事例もあるようです。ショートステイの庄司さんから、ちょっと説明してもらえますか。

庄司俊彦(川瀬,介) この方は、家で奥さんとドライバーの柄の部分を塗る仕事をしていました。レクをしている時は集中してやっているのですが、それが終わって、やることが途切れてしまうと「帰らんばねぇ」、「人が来るから」と言います。その方にはプログラムとは別に、雑巾や布切れを作ってもらうなどの細かい作業を用意すると帰宅欲求がなくなります。たたんでもらった布切れを片付けるフリをして、別室で広げて、「まだあるのでお願いします」というふうにしたこともありますね。この方には手作業が非常に合いましたね。


川瀬神経内科クリニック 介護職 庄司俊彦 氏

 

‐事例から‐ケース1【仕事にいかないと・・・】 # 現役時代の仕事とからめて

川瀬敦士 もう一つ同じようなケースの説明をお願いします。

庄司俊彦 この方は元看護師の方でショートステイを長期で利用していました。時々仕事している時に戻っちゃうのですね。普段は穏やかですが、給料が盗まれたとか被害妄想もある方で、家の事をしなきゃダメだと言って帰りたがるのですけども、実際家には帰れないので、その時「○○さん、私と一緒に当直ですよ」と言うと「今日、私当直だったっけ?」という感じになりますね。仕事をしなければならない感じにはなるのですけども、とりあえず帰宅欲求は消えましたね。そういった昔の仕事にからめた声掛けで効果があった例ですね。

 

‐事例から‐ケース2【計算をするが・・・】

川瀬敦士 では続いて、次のケースにいきます。

荘司聡美(デイサA,介) この方はデイAを利用の女性の方で、ご利用時間が長く、朝一番に来られます。その後、他の人が来てざわざわしてくると、落ち着いてもらうために計算問題を20~30してもらいます。2ケタの足し算をやっているうちはいいのですが、引き算になると苦手になるみたいで、うまくいかなくなると「先生、見て!」と言って、見守っていないと怒り出します。また終わったらすぐに「丸付けをしろ!」と言います。その丸付けも朝の忙しい時間帯だったりすると見ていられなかったりするのですよ。すると「帰る」と言って怒り出し、席から離れてうろうろし始め、玄関へ向かって歩いていく感じですね。

板垣照子(川瀬,看)計算以外に興味があることはありますか?

多田紀美子(デイサA,介) 以前靴屋さんをやっていて、その前は実家の豆腐屋さんでした。その商売がてら計算が得意なのか全て暗算で、問題はすぐ終わってしまって丸付けが追い付かない。それで怒り出す(という感じです)。

板垣照子 難易度を高度な問題にするとか?

荘司聡美(デイサA,介) 自分がスッキリいくような計算問題だと集中してやるのですが…。


うらだての里デイサービス 介護職 荘司聡美 氏

中野智佐子(デイサC、介) 丸付けも解答を用意しておいて、自分で出来る方ですか?

多田紀美子 いや、しないですね。職員全員を先生だと思っているので、「先生」と言って持って来られます。計算問題を準備するのが追い付かないくらい、ものすごく計算が早いです。

荘司聡美 だんだん疲れてくるとイライラして大きな声で「帰る!」と言い、他のご利用者さんみんなが引きずられてしまいますね。

川瀬敦士(川瀬,リハ) 結局、本当に好きなのかどうなのか、ただ強迫的にやっているのか、わからないですよね。やってくれているから、どんどん提供していっても、それでいいのかどうか。徳長さん、何か思うことはありますか?

徳長英人(GH,介) その計算は皆さんの前でやっているのでしょうか


はあとふるあたごグループホーム三条 介護職 德永英人 氏

多田紀美子 フロアの一角のテーブルで皆さんがいるときにやっていますね。見守りで職員が付いていないとダメですね。

荘司聡美 もう「見て、見て!」って感じです。ご利用者さんに怒ってしまうと困るかなと思って…。職員なら怒られても「こめんなさいね」と言って済みますけど。そこで喧嘩になったら大変なので。

中野智佐子 
丸付けしてくれるような利用者さんは同じ曜日の方でいらっしゃらないですか?お願いできるような方とか?

渡辺美佳子(川瀬,CM) その方の利用時間が長い理由は?

多田紀美子 娘さんのお仕事の関係で、娘さんが朝早く送って、帰りは利用者さんみんなが帰った頃にお迎えに来るので、一人になる時間も多く尚更落ち着かなくなります。

中野智佐子 かまってもらいたいのでしょうかね。

荘司聡美 甘えん坊さんのような感じです。

高橋芳雄(川瀬,介) 帰宅欲求の前に「行きたくない」とかはないですか?参加日だと必ず来るのですか?

多田紀美子 娘さんが送って来られるので、普通に何もなかったかのように来ますけど、帰りはソワソワして玄関で待っています。靴も履き替えてソワソワしています。その頃には計算問題もしたくないみたいでとにかく玄関を行ったり来たり。

中野智佐子 計算問題のプリントをやったことは覚えていますか?

荘司聡美 それは覚えてないですね。また同じ計算問題を渡しています。

川瀬敦士 点数が高いとご本人は嬉しそうですか?

荘司聡美 それが全部、○(正解)で、満点です。

川瀬敦士 やったことも覚えてないけれども、その場、瞬間、瞬間で達成感を味わってやっていると言う事ですね。

高橋芳雄(川瀬,介) 他の教科はどうですか?算数だけじゃなく。1時間目国語、2時間目算数とか。時間割のような感じです。

原島哲志(川瀬,介) 国語、漢字の時間とか。

庄司俊彦(川瀬,介) 入浴拒否とかないですか?高橋芳雄 バラエティに富んだものとか。

荘司聡美(デイサA,介) ないです。

庄司俊彦 時間が長いってことは、一人で残る感じ?

荘司聡美 一人で最後まで残っていますね。

中野智佐子(デイC,介) ちょっとお掃除の手伝いとかできそうじゃないですか?

多田紀美子(デイA,介) テーブル吹きとか?やらないかな?

荘司聡美 直ぐに嫌になりますね。

中野智佐子 続かないですね。

川瀬敦士(川瀬,リハ) 本当は他の事もやりたいのかもしれないですね。一見忘れているようでいて、実は心の中では飽き飽きしている部分があって、ある程度の所までいくと逆にストレスになっちゃって爆発するのかもしれない。もうちょっと違う種類のことがあればいいのかもしれない。数字だったら線を結ぶようなものもあるかもしれないし、100マス計算とか。

荘司聡美 線結びは出来ましたね。

川瀬敦士 パズルは?

荘司聡美 パズルは、やってないですね。

川瀬敦士 永遠にずっとやることは誰でも飽きることですからね。時間を決めてやるとかね。

 

‐事例から‐ケース3【どうしてここに私はいるの?】

川瀬敦士 こちらは、特養さんからのケースです。簡単に紹介をお願いします。

永井晴夏(特養,介) はい、この方は怒るとかは無いのですけど、いつでもスイッチが入ると「帰りたい」、「ここはどこで私はどうしてここにいるのですか?」と始まって、ちょっとそこからナイーブになってしまって。「(自分の)家族はどうしているのですか?」とか、質問がずっと続きます。認知症が強い方で、返事をした瞬間に質問が帰ってきます。「どうして私はここにいるの?」という質問に「家族が○○な理由だからここにいます」と言っても「はぁ~、私はどうしてここにいるの?」とずっと繰り返されて自分の中で決着がつくまでずっとグルグルしているみたいで、そこに上手に納得のいく答えが出せたらもうちょっと落ち着いてられるのかなとこのケースを挙げさせてもらいました。


特別養護老人ホームおおじまの里 介護職 永井晴夏 氏

川瀬敦士 何か質問等ありますか?

土田友美(GH,介) うちの施設(GM)でも、「今日泊り?」とか、「なんで今ここに?」という人がいますが、その人はお部屋に、娘さんから、「ここで1年間の契約をしている」という張り紙をして、それを見て「なんでかね?」とは言っても「娘が言っているから仕方ないよね」と納得しておさまる。視覚にして(本人に示して)、それで(本人の疑問は)消えますね。


はあとふるあたごグループホーム三条 介護職 土田友美 氏

川瀬裕士(川瀬,医師) 何かのきっかけで自分の中で納得できるもの、それが正しいかどうかは別として、その人の中で納得のできるスイッチが入れば「ここに居ていいんだ、じゃあ、いいか」みたいに思うことがあるかもしれない。

川瀬敦士 言葉だけではなく、環境から情報を得るようにすれば少し納得に繋がる部分もあるかもしれませんね。「空電話」のケースがありましたよね。これは高橋さん、お願いします。

 

‐事例から‐ケース3【どうしてここに私はいるの?】 # 空電話

高橋芳雄 そうですね、「お客さんが来る」、「用事がある」という理由で帰宅欲求がある方で、本当にそう思い込んでいるので全く耳を貸してくれない。そこでよくあるやり方かもしれませんけども、職員が「じゃあ自宅に確認してみましょうか?」と言って、受話器を持って「もしもし・・・はいそうですか。わかりました。失礼します。・・・お客さんはもう帰ったみたいですよ」と。こういう演技も必要になってくると思います。

川瀬敦士(川瀬,リハ) 実際にこういう事をやってらっしゃる所とかあるのではないでしょうか?皆さん、いかがですか?教えてください。

富樫亜希子(デイサB,介) お孫さんがいる方で、「孫が家で待っているから帰らなきゃいけない」と言った時に、お孫さんのフリをして「今、お孫さんに繋ぎました」と変わってもらって、それで職員が「ばあちゃん、帰って来なくて大丈夫、そこに居てね」と言うと娘さんだと信じて納得して下さることがあり、けっこう空電話はよく使います。


はあとふるあたごデイサービスセンターさかえ 生活相談員 富樫亜希子 氏

高橋芳雄(川瀬,介) 空電話もそうですし、永井さんのケースに戻りますと職員それぞれが全く別の声掛けをするのも良くないと思うのでね。職員の中で統一しておいて同じ回答をする、ということが必要になるかと思います。


川瀬神経内科クリニック 介護職 高橋芳雄 氏

原島哲志(川瀬,介) 本人に聞いたことはありますか?僕がたまに使う方法ですけど「どうしてここに私はいるの?」って聞かれるじゃないですか。でもなかなか対応が難しいじゃないですか。だから逆にその人に聞くのです。「私の知っている人で『どうしてここにいるの?』って言う人がいますがどうやって答えてあげればいいですかね?」って逆にその方に相談します。そうするとその方が答えられるかはわからないけれども「それで私は困っていまいす。どう答えてあげたらいいですかね?」って本人に聞いてみてはいかがですか?私はオウム返しの技といっています。相談をする形で。

川瀬敦士 聞いてみるのは、良いかもしれないですね。なるほど。

 

‐事例から‐ケース4【コミュニケーションが取れない】

川瀬敦士 それでは次に移りますね。居宅の方ですね。

塚原美穂(居宅,CM) そうですね、話しかけても認知機能が悪いのか聞こえてないのか、その辺がわからないのですが、内容が全然噛み合わない。問いかけに対して全く関係ない答えが返ってくるのでどうしようかと。全然会話が成立しません。そんなケースです。聞こえてないのかもしれないし、どうなのかなと。

川瀬裕士(川瀬,医師) この方は、帰りたいとか、そういうのではないのですね?

塚原美穂 それ以前の問題なのか…、ケアマネージャーの立場で関わっているもので、施設ではないんですけど。例えば訪問させてもらった時に「体調はどうですか?」と話を聞きますが、全く違う回答が帰ってきます。

川瀬裕士 認知症の重症度によっては、失語という病態で(言葉の)理解ができなくなっている場合もあるので、作業は何でもできるけど言葉のやり取りができないとか。認知症のタイプや重症度によって言語のコミュニケーションがほとんど取れない方はいます。でも聴力の問題であれば、短い言葉を耳元で少し大きく伝えたいことだけをハッキリと言って何とか伝わる時もあったりするし、(目で見える)字を使うこともあります。それでも認知症の重症度やタイプによってはコミュニケーションをうまく取れない人はいると思います。

板垣照子(川瀬,看) どんな言葉が返ってきますか?「具合はどうですか?」って聞いたときに、本人はどういう風にしゃべりますか?

塚原美穂 全然関係のない事が帰ってきますね。

渡辺美佳子(川瀬,CM) 自慢話とか?

塚原美穂 自慢でも無いですけど…。何を話しているのか正直よくわからない所があって。

川瀬敦士(川瀬,リハ) そういう以前に意思疎通をどう図ったらよいかですね。

高橋芳雄(川瀬,介) コミュニケーションを取る時にスキンシップしますか?

塚原美穂(居宅,CM) そうですね、「この人は大丈夫かな?」って方には手を触ったりします。

高橋芳雄 介護スタッフで人気のある方、コミュニケーション・意思疎通ができている方は、スキンシップが上手な人ですよ。ただ急に初対面で、いきなり肩組んだりするのはもちろんいけませんが、手順、段階を踏んで距離感がうまく取れる人、上手にスキンシップする人はコミュニケーションが取れています。実際に意思疎通が難しくて、もう認知が進行しきっていて自分の思いが言えなくても、とりあえず「あなたの事ちゃんと見ていますよ。わかっていますよ」という風な事を伝えるだけでも、本人にとっては気分よく過ごせると思います。

塚原美穂 確かに私が帰る時になって「また来ますね」ってなると、その時は割と「また来いね」って言います。

板垣照子(川瀬,看) さっき原島さんがオウム返しの話をしていましたけど、やっぱりその人が言った言葉をこちらから返してあげると「この人、私の話を聞いてくれた」っていう風に感じる方はいますので、ちょっと試してみるのも大事かなと。

塚原美穂 言っていることを聞いてですね。

板垣照子 言っていることを聞いて「~なんですね」って言った言葉を返してあげるだけでも「自分の話を聞いてくれている」って伝わるのでは。言ったことをこちらでオウム返しにしてあげるだけでも全然違うと思います。

川瀬敦士 訪問リハビリで皆川さんも、いろいろなコミュニケーションの困難な方と在宅でコミュニケーション取ると思いますが、どうですか?

皆川尚久(川瀬,リハ) 基本動作と言いますか、「手を挙げてください」、「立ってください」とかそういう指示だとかはどうですか? その方は車イスですか?

塚原美穂 いや、歩きますね。

皆川尚久 「こちらの椅子のほうに移動してください」とかはどうですか?

塚原美穂 その指示はどうだろう?何とも言えないですね。

皆川尚久 例えば「手を挙げてください」というのも、指示が(正確に)入らなくてもやってもらうことはできる。学生さんとかは筋力を見るために「こちらの抵抗に負けないように押してください」とかゴチャゴチャ言うことがありますが、ゴチャゴチャ言ってしまうとわかりづらくなってしまい理解されてない部分もあると思いますし、また比較的耳の遠い方もいますので「手を万歳してください」と言いながら(同時に自分が)手を挙げてみる。そういうふうにジェスチャーでなるべく伝えるような感じ。


川瀬神経内科クリニック 作業療法士 皆川尚久 氏

 

‐事例から‐ケース5【さて、はてな?(外に出る)】

川瀬敦士 続いてのケースに移りたいと思います。グループホームさんからですけども、詳細に送って下さったのでまとめさせてもらいました。足りない所は補足して違う所は訂正してください。お願いします。

土田友美(GH,介) 私たちのグループホームでは、今年の1月より認知症対応型のデイサービスを始めていますが、職員にとって初めての事で何をどうしたらいいのかわからないまま手探りの状態でやっています。職員の間で戸惑いや怖い、どのように関わり合いを持てばいいのかわからないという声が上がっています。(83才の男性の)お客様は「さて・・はてな?」と言ってポッケの中に手を入れて歩き始めて、外に出ていって近所の家に入って行かれたこともあります。そのような方に対して私たちは(その方が)出て行ったら付いていくしかないし、止めたら怒る。といった状況です。

徳長英人(GH,介) (今日もその方に)内履きで叩かれました。

土田友美 そのような人には、どうすればいいのかな?と。

川瀬敦士(川瀬,リハ) ありがとうございます。またご家族にケアのアドバイスを伝えたいということが目的にあったようですが。

土田友美(GH,介) はい。(私たちが)迎えに行ったりすると、ご家族が(本人を)子ども扱いするような感じで、「靴、履いて!」、「はい、ここ捕まって!」、「はい、手を繋いで!」とか。たぶん本人は望んでない。始まったばかりで信頼関係もできていないのに「手を繋げ」と言われても私でも嫌だし。だけど家族が焦らせると言いますか。そうすると混乱して、来るのもやっとだったりします。お昼も食べてからソワソワして過呼吸みたいになって、言葉を出したいけどハアハア言って出ない。

川瀬敦士 介護1なのでまだ認知症状がそれほど重くないという状況で悩まれている部分もあるのでしょうかね。自分でうまくできないところがあったりする中で、そういう(ご家族の)態度があってストレスもあったと思いますが。皆さん、どうでしょうか?女性ばかりのところに男性1人という情報もありましたね。

渡辺美佳子(川瀬,CM) 送り出しの時に焦らせるご家族って奥様ですか?

土田友美 老々介護なので、お母様もストレスを感じてられて「早く行って!」みたいな感じで…。

渡辺美佳子 同じ施設の中に、(認知症)カフェ*1があるじゃないですか。奥様はそちらの方には興味はないですか?

*1 認知症カフェ: 認知症の方と家族、地域住民、介護スタッフの集いの場。認知症の方を中心に集まることで、認知症の方の居場所が確保されるとともに認知症に関する悩みの相談や、介護に関する情報の交換の場。

土田友美 カフェにも来られます。一緒に来ています。月曜から土曜日までフルで利用されているので、職員も日曜日だけしか休まれない。他のお客様に手が回らない。

中野智佐子(デイC,介) 簡単に(外に)出てしまうのですか?

土田友美 止めるとダメですね。鍵も掛けてないですし。

中野智佐子 鍵はかけていないのですね。

土田友美 車も(運転して)ボコボコにする。鍵は取ってありますが…。

板垣照子(川瀬,看) 他の女性の方とは会話はないですか?

土田友美 朝の気分にもよりますが、お母さんと何かあったときは、不穏な気持ちが残ったまま来ます。穏やかな時はみんなで囲みながら歌を歌ったりしますが、昼食後がソワソワしてきます。そこに何か原因があるのかまだ掴めてないです。

中野智佐子 それこそ、何をされていたかわかりますか?生活歴がちょっとわかると。

土田友美 暖房器具製造の会社で設計のお仕事をしていました。プライドが高い方です。

 

‐事例から‐ケース5【さて、はてな?(外に出る)】 #訪問介護(準備と送り出し)

川瀬敦士 佐藤さん、普段訪問介護をしていて何かご意見やご感想はありますか?

佐藤絵美(訪介,介) そうですね、「行きたくない!」というのは携っている中で結構あって。デイサービスやショートステイに行く前の準備と送り出しというのを訪問介護ではさせてもらっているのですが。「行かない。行かない!」と言っていても、どうしても私たちはやらなきゃいけないので。例えば病院に通院に行くのに、バスの時間が9時10分でお迎えが来るのでそれまでに下に行かせないといけないという時も、私のやり方だとギリギリまで病院という言葉は出しません。部屋から出ると近所の人が、「医者(に行くの)?」って言うので、「シーッ!」って言って。「今日は事務所までお金を払いにいかないといけないので、私と下に行きましょう」という感じで下まで連れていきます。でもバスが来るので「あ、私、病院行くんだったのね」と言われて、「ああそうなんです」と(答える)。でも(前に)言ったこともすでに忘れているので、そういう使い方ができます。そういう感じで訪問介護の送り出しは、やっています。でも楽しくやらせてもらっています。


ジャパンケア三条 訪問介護 佐藤絵美 氏

川瀬敦士 この方は家から出てくるのには出てきますか?

土田友美(GH,介) 連れてくるのは大丈夫ですが、ご飯の途中だったり、排便の途中でも、お母さんが「出ていけ!」と押し出されたりされます。その残りもあったりするのかなと…。

川瀬敦士(川瀬,リハ) 家族としては行ってほしいと?

土田友美 はい。

高橋芳雄(川瀬,介) この方の周りにいる利用者さん達は、その男性に対してどんな感じですかね。

土田友美 普通ですね。始まった当初も、他の利用者も混乱なく違和感なく過ごされています。

高橋芳雄 男性はおだててあげれば楽しくなりますよね。周りの利用者さん達に話を通して、持ち上げてもらうとか。スタッフだけだとできることが場合によっては限界があるので。

土田友美 他の利用者様が持ち上げてくれるかといったら難しいかと。

中野智佐子(デイサC,介) むしろ男性なので、「そのグループの中の長をお願いします」って役割を持ってもらうとか。

土田友美 そうなればいいですが、スイッチが切れてしまうと手が付けられなくなってきて。

中野智佐子 キレた時に何か趣味とか?

土田友美 「そんげんしてらんねえ」って手が出ちゃいますね。

土田友美 8時30分から16時30分までなので、16時30分まで持たせるのが大変で…。お昼を食べた後に、外に出てずっとドライブな感じなので。

中野智佐子 そこに職員が1人付かないといけないのは厳しいですね。

 

‐事例から‐ケース5【さて、はてな?(外に出る)】 #一緒についていく

川瀬敦士 デイサAさんはどうですか?こういう人はいますか?

荘司聡美(デイサA,介) 以前の職場で小規模にいた時に、そういう感じの人がいて、とにかく玄関に携帯電話と、冬はジャンパーを置いておいて、自動ドアとかもこう(手で)開けちゃって外に出ていくんですよね。職員と2人で出て行って延々と歩いて、携帯電話を持って行っているので「今、どこどこにいるので迎えに来てください」と連絡したりしていました。その人は泊りが多かった人でストレスがあるみたいで、行って戻って帰ってくると何事もなかったかのようにしています。ただこの方は奥さんといる時は良い顔をするんですよね。(その方は)奥さんの言う事は聞きますか?

土田友美 多分、聞いています。

中野智佐子 (例えば奥さんに)「何時に車が来るから」、「何時まで私は用事があっていないからそこにいて」とか、何かそういうメッセージを入れてもらったりして聞いてもらうとか。それで納得はされませんか?

土田友美 お家でも出てってしまうことがあるみたいで。そういう時はタクシーを頼んで一緒に回る。家ではそういうことをやっているようです。

川瀬敦士 「さて・・はてな?」と言う時は、どんな心境なのでしょうかね?

土田友美 「さて・・はてな?」と言って、(座っている席の後ろ側の)外を見るんです。後ろに川が流れていて、川にこだわりがあって、五十嵐川がどうのこうの言っていて。昔の風景と重なる部分があるのか・・。それで(その後)両親の話になったりします。

川瀬敦士 断片的な記憶を拾い集めて言葉にされているのかなともちょっと想像できますね。家から出ていく時は、「どこかに行かねばならねえ」というのは何とか認識しているが、手がかりがどんどん無くなっていくうちに見当識もわからなくなって、「さて・・はてな?」と。でも「家に帰らなければ」、「遊んでばかりいられない」となるのであれば、何か今の自分の居場所がここでいいのかとか不安になっているのかなという気はします。そうならば先ほどから出ているような、見当識を促すような何かがあると良いのでしょうか・・。空電話とか使えるのでしょうか? この方は難しいですかね?

土田友美 難しいですね。

川瀬敦士 なるほど。何か安心材料になるものがあるといいですかね。あとは、その外に出ていくというのも、一度興奮してしまった人には「帰りましょうか」という言葉で一度肯定しないと収まらない所もあるかと思います。

土田友美 抑えた瞬間に手が出てしまうので…。

川瀬敦士(川瀬,リハ) 他にご意見はありますか?庄司さんは何か?

庄司俊彦(川瀬,介) この方は(自分も知っている)方と思うのですが、ショートステイにこの方が来られたことがあって、(問題なく)もったのは朝の午前中だけでした。その後は暴れたので、男性スタッフに手伝ってもらって抑えました。その時は初めてのショートステイだったので、奥様にも「どうにもダメだったら連絡することがあるので、連絡取れるようにしてください」とお話していましたが全然電話も出なく、興奮時の頓服薬を飲みました。その後おやつの時間までは何とかなりましたが、やっぱりまた暴れだして。午前中から家族に何度も電話はしていたのですが、電話に出られなかったので、とりあえず家に行ってみようということで車に乗せて行きましたが、居留守を使っていて…。まあ、そういう事もあってショートステイはお断りにしたんですが・・。大変でしたね。うちのショートステイは定員が10人しかいないので、どこにその人が居ても他の利用者さんに見えちゃって。怖がる人もいればその人に怒る人もいてめちゃくちゃでした。医師に相談させてもらって、「帰ってもらっていいですよ」ということになって(帰って頂きました)。まだデイサービスだから帰る時間はあるじゃないですか、僕らはショートステイで1回受けちゃうとなかなか大変ですね。

土田友美 奥さんにも協力的になってもらって、例えば急がせないとか認知症ケアに参加してもらえれば、良い感じが保たれるのかなと思いますが。

 

‐事例から‐ケース6【暴れだす】

川瀬敦士 その他に対応に苦労する例で、このようなケースもありました。これは渡辺さんでしょうか?お願いします。

渡辺美佳子(川瀬,CM) はい、この方は93才の女性です。ご高齢ですが、日中は比較的おとなしく夜は早く寝てしまい、夜中に起きて車いすで自走されて、職員の方が制止しようとすると殴ったり、蹴ったり、また掴みかかるということがあって。職員の方がマンツーマンで対応しなければならず、ご家族に連絡することもできないくらい切羽詰った状況になったようです。(落ち着かせるための)頓服薬を服用してもらっても中々落ち着かず、早朝の5時くらいにようやく落ち着かれたということでした。本当に何を言っても通じなくて、きっかけがなく急に暴れだす方なので、なにがなんだかが未だによくわからなくて対応に困ったケースです。


川瀬神経内科クリニック ケアマネージャー 渡辺美佳子 氏

 

‐事例から‐ケース7【暴言暴力】

川瀬敦士 ありがとうございます。もう一方いらっしゃいますね。これは庄司さんですか?

庄司俊彦 はい。この方はショートステイを今まで使ったことのない方で、ケアマネージャーさんからもデイサービスでもなかなかサービス定着に繋がらない方だったので心配されていました。やっぱり到着してからずっと「帰らせろ!」という感じで。お昼の時だけは落ち着いていましたが、車いすの方で立ち上がろうとして転倒の危険があったり、職員への暴言暴力などもあったりしました。先ほども言ったように他の人達に悪い影響が出始めたので、夕食後にご家族にお迎えに来てもらったケースです。ショートステイをやっていて誰でもショートステイは使えるわけではないんだなというのが本音ですね。

中野智佐子(デイC,介) 本人が納得してないと、尚更ダメですね。

庄司俊彦 プロなのだからと思われていると、ご家族に電話するのもつらいですが、他の人も見られないので。日中はスタッフがいるから何とかなりますが、夜は夜勤1人なので難しいですね。

川瀬敦士 頓服の薬も出ているようですが、お薬の関係で薬剤師として竹田さん、いかがでしょうか?

竹田暁(薬局,薬) まあ、飲ませればいいというものではないですからね。この方は薬が効かなかったですか?

渡辺美佳子(川瀬,CM) 薬が効かない前に、なかなか全量をうまく飲んでいただくことも難しかったようです。既に不穏になっていて、素直に「ありがとう」とは飲んでくれなくて。うまく飲ませられなかったようです。

竹田暁(薬局,薬) そうですよね。

板垣照子(川瀬,看) 液体の薬だったのでしょうか?

渡辺美佳子 錠剤でしたね。液体ではなかったですね。

川瀬敦士(川瀬,リハ) どうしても難しい例はあるようですね。何かご意見はありますか?

皆川尚久(川瀬,リハ) ショートステイが必要になった時に、その時になって初めて使うのではなくて、可能であれば少し段階的に慣れていただいた後でご利用されてみるというのはどうでしょうか?

渡辺美佳子 このケースだと、デイサービスとショートステイが同じ建物の所で、最初デイサービスから始めてその建物に慣れてもらった後で、お泊りの方も1泊2日という一番短い期間で始めました。初回は良かったのですが、その後何回か回数を重ねていって、突然に(夜間の興奮状態が)起こったので誰も予測してなかったところがありました。

中野智佐子(デイC,介) その時に限って何かあったのでしょうかね?

渡辺美佳子 その辺が全く分からなくて…。「行きたくない」というのはもともとない方だったので、職員の方が手厚く対応してくれて、すごく満足していたので行くことには全く拒否がない。家族の話しでは、時々突然妄想が混じった強い興奮状態になることがあり、それが始まったのではと。

 

‐事例から‐ケース8【マッサージ】

川瀬敦士 はい、たくさんのご意見ありがとうございました。この他にまだいくつか事例がありますので簡単に紹介していきたいと思います。マッサージというのは、高橋芳雄(デイケア)さんでしょうか?

高橋芳雄(川瀬,介) これも帰宅欲求をそらすと言いますか、紛らわすために始めたことの1つなのですけれども。女性の利用者さんには男性職員が、男性の利用者さんには女性職員があたると割合マッサージ系は良い(効果がある)という印象があります。おもしろいことに男性の利用者さんは(スタッフを)揉む方が、女性の利用者さんは(自分が)揉まれる方が喜びますね。なぜかはわかりませんが。これもコミュニケーションの一環なのでこういうことを重ねるとマッサージがその方の役割となってきて、帰宅欲求を言う前に「またマッサージしてよ」、「マッサージしますよ」と先手を取ってやるようにしていますね。

 

‐事例から‐ケース9【もったいない】

川瀬敦士 あと「もったいない」というのは?これも高橋(デイケア)さんですか?

高橋芳雄 このケースで言うと、「もうお昼代も貰っていますし、もうすぐ出来上がりますのでもったいないからお昼だけでも食べていきましょうよ」と。この「もったいない」がキーワードになっております。2つ目は、「帰りのバス代ももう頂いておりますので、バス代がもったいないから歩いて帰らないで、せっかくだから乗っていってください」という風に、「もったいない」をくすぐったらうまくいったケースが幾つかありました。もう1つ、これはお金のケースで似ているようで違いますが、今度の例は不安そうなのですね。「いや、どうしよう、どうしよう」と不安そうになっていて、玄関をチラチラ見たり、スタッフをチラチラみたり。それで意を決したように言ってきて「あのさ、言いにくいんだけどさ、帰るわ」。「どうしましたか?」。「あの金が無いんだて」。「あ、言うのを忘れていました。今日のお昼代とバス代は事前に貰っていますので、お金が無くても大丈夫ですよ」。「ああ、そうかね。そりゃ、よかった。実は今日財布を忘れてさ。いやあ、助かった。ありがとう」という風にして。納得してスッキリしておりました。

 

‐事例から‐ケース10【家は工事中で帰れない】

川瀬敦士 次は渡辺(ケアマネ)さんですか?お願いします。

渡辺美佳子 はい、ご夫婦でショートステイをご利用されていましたが、ご主人はたそがれ時になってくると帰りたがり、家の事が気になるようで奥様とコソコソと相談をして「おい、タクシーを呼ぼうや」、「お前が帰ると言え!」と奥さんを使って帰ろうとします。一筆娘さんから「自宅は工事中なので帰れません。泊まって下さい」と書いた手紙をもらっていて、それを見せると一旦落ち着いて、日没で周りが暗くなるとあきらめるという方でした。

 

‐事例から‐ケース11【思い違いを利用】

川瀬敦士(川瀬,リハ) ありがとうございます。別の例でこれは庄司さんですかね?

庄司俊彦(川瀬,介) この方は、困るような帰宅欲求ではなくてちゃんとすぐ納得してくれる方でした。僕の事を自分の息子さんの友達だと思い込んでいたので、倅さんの名前を呼び捨てにさせていただいて、「○○におばあちゃんを泊めてくれって言われているから」という話をすると、納得されていました。「あいつに電話しておくから大丈夫だよ」と言って、落ち着く方もいました。

 

‐事例から‐ケース12【反応しない】

川瀬敦士 こちらも庄司さん?

庄司俊彦
 お芝居する方で、仮病を使って倒れるフリをして「具合が悪いから帰らせてくれ」と言います。ずっと対応していたのですがなかなか改善されないので、無視ではないですけど転倒に十分配慮し見守りをしながら本人の好きにさせていたら、そのうち本人はあきらめました。

図3 : 帰宅欲求に役立つ実践介護テクニック

1.環境工夫術
・落ち着く環境づくり
・短時間にする
・帰る人を見せない
2.直接交渉術
・お茶、昼食、夕食がある
・支払い済み、もったいない
・正直に伝える
・オウム返し
・寂しいからいてください
・暗いので明日に
3.注意転換術
・手作業、手伝い
・マッサージをする、してもらう
・散歩
・反応しない(転倒リスクなどへの注意を払う)
・話を少し変える(「ところで」「そうそう」)
4.演技利用術
・空電話
・現役時代の仕事とからめて
・思い違いを利用(スタッフを子供の友人)
・家は工事中、災害のため会社臨時休業

感想

多田紀美子(デイサA,介) 今日はありがとうございました。いろいろな帰宅欲求のパターン、意見を聞かせていただいて、うちの例で言うと男性的な手作業とか、計算問題のご利用者の方には、それ以外の科目もいろいろ検討してまたやっていこうかなと思います。

荘司聡美(デイサA,介) 私も皆さんが同じような事を言っていて、暴力、意思疎通ができないと、悩んでいるところもあったので、同じように共感できることがあってお話ができて良かったと思います。今日話したことを参考に試してみたいと思いました。

富樫亜希子(デイサB,介) いろんな事例を聞けて共感できる部分もあったし、すごく勉強できる部分があって参加してよかったと思います。先回りした対応とかその方のアセスメントの重要性もすごく勉強になりました。あと個人的には演技力も必要だと思いました。今聞いたいろんな意見を参考に明日から対応して参りたいと思います。

竹田暁(薬局,薬) 薬局ではだいたい家族の方が薬を取りに来ます。本人に会うことはほとんどないです。なのでみんな大変だなと思いながらずっと聞いていました。「家族の方に、お変わりないですか?」、「変わりないです」くらいで終わることが多いですが、実はこういうことがあるんだなと。家族の人でもイライラしながら、早く、早くという人もいて、そういう人にはこういうことが裏にあるのかなと思いながら話をしていければいいなと思います。ありがとうございました。


メッツ嵐南薬局 薬剤師 竹田暁 氏

中野智佐子(デイサC,介) 私もいろんな方を見ながら「そうだそうだ、あるある」と心の中で。みなさんいろんな経験をやっぱりしているので、そういう皆さんと共感をしながら聞いていました。また役者にならなきゃいけないなと思いつつ勉強させてもらって、ありがとうございました。

永井晴夏(特養,介) 私の施設では、ここまで強い帰宅欲求の方はいなくて。私が出させてもらった事例で、「どうして、~なの?」と聞かれたときに、オウム返しや空電話を試してみて、その人が安心できるようなことを出来ていけたらと思いました。

佐藤絵美(訪介,介) 生活歴がとても大事だなと思いましたので、これから皆さんの意見を訪問介護の方でも使わせていただきたいと思います。ありがとうございました。

徳長英人(GH,介) いろいろ事例を見てきた中で、意思疎通ができない方もいて共感もしたし、次のケアに繋げればいいなと思いました。演技力の方も勉強させていただきたいと思いました。

土田友美(GH,介) 提供した事例に対してもっともっと色んなことを試して、今度スーツで迎えに行ってみようかなとか、仕事に行く気分なのであれば。作業着を着たり名刺を出したりしようかなとか。いろいろ試して乗り越えようかなと思いました。

塚原美穂(居宅,CM) 私はご家族様とも接する機会が多いので、ご家族様からも切ないんだよという気持ちを聞いたりもするし、現場で働いている皆さんの切実な大変さとか、受け入れがたい方がいるとか(も分かる)。ご家族と利用者の間に立っている皆さんにとっては、辛いところではありますが。皆さん、大変でしょうけど頑張っていただけたらなと思いました。

渡辺美佳子(川瀬,CM) 皆様の意見を聞いてケアマネージャーとしてできることは、一番初めにご本人様、ご家族様と関わる中でやっぱりきちんとその方がどういう風に今まで生活してこられたか、職種ですとか、趣味というのを知ることが大事だと改めて感じました。またアセスメントの段階でも十分コミュニケーション力を高めて事業者さんとの連携も取っていきたいと、またさらにその気持ちが強くなりました。

庄司俊彦(川瀬,介) ショートステイの方がいなかったのがちょっと残念でしたけれども、ショートステイでの対応の難しさをお伝えできたかなと思いました。また次回も参加したいと思います。

皆川尚久(川瀬,リハ) 昨年の4月から川瀬神経内科クリニックに入職し、(介護スタッフの)演技力の部分、楽しくのせるとか、そういう所はすごく身に染みてきましたが、今後も自分も訪問リハの時の演技力を磨いて日々頑張っていきたいと思います。

川瀬弓子(川瀬,地域) 私は高齢者になっていますけれども、明日は我が身としては、今たくさんの方が「私は認知症です」とカミングアウトしています。その人達のレポート、本を是非読んでください。なんで怒るのか、なんで帰りたいのか、自分の言葉で書いてあります。当事者の言葉が聞ける時代になったのですね。私の年周りの人も若年性で認知症になっていますし、予備軍とも言います。そういう人達の声を是非聞いてください。私たちはケアする側に立っていますが、実は認知症になりたくてなっているわけじゃないんですよ。「私はこうなんだ」というのがいろんな所で発信されていますので、是非それを見て両方の気持ちが分かるプロになっていただきたいと思います。今後ともよろしくお願いいたします。


川瀬神経内科クリニック 認知症地域支援専門員 川瀬弓子 氏

高橋芳雄(川瀬,介) 今日は帰宅欲求ということでしたけれども、対応できる帰宅欲求というのは軽度なもので暴力が出るような帰宅欲求に対しては、正直なところできることは少ないと思うんですよね。だからそもそも良いコミュニケーション、良い関係作りもまた大事なんじゃないかと思います。それで「この人、なんでこんなわがまま言うんだろう?病気だから仕方ないか」ではなくて、「どうやったらこの人に喜んでもらえるだろう?」、「いい関係を築けるだろう?」というところに介護する側としては心を向けなければいけないと思います。ただ認知症というのは立派な病気でもありますので介護だけでは対応できない。やっぱりそこで医療と両建でいかねばならないので、我々としては介護としてもっと医療に情報を繋げる。これも必要な事かなと思いました。

原島哲志(川瀬,介) また貴重な話を聞かせていただいて、毎回楽しみにしています。だいたい何もわからないから多分帰りたがるのかな、何もわからなくなっちゃたから立ち上がるのかなと思いますので、少しでも寄り添えるというか、共感できるようになればいいかなと思っています。私はなるべくその人の喋り方とか喋るスピードとか、ものまねじゃないですけどなるべくその人と同じようなトーンとかスピードで話すようにしています。コミュニケーションの部分は特に。その人が一番聞いているのは自分の声、自分のスピードなので、多分一番入りやすいと思います。なるべくそういう風にはしようとは思っています。また次回も楽しみにしています。

板垣照子(川瀬,看) 私ももう少しで高齢者になりますけども、いろんな人と寄り添っていくのが一番かなと思っていますし。高橋さんが言ったようにスキンシップがとても大事なので、私は毎日なるべく手を握って血圧を測ったりとか、肩を触って体温計を入れたりとか、やっぱり触ってもらうだけでも認めてもらえていると感じてもらえればいいのかと思います。怖がらずにスキンシップをとって、いつでも寄り添えるような関係作りがとても大事かなと思っています。

川瀬裕士(川瀬,医師) 帰宅欲求に関しては、軽い段階から重い段階まであるなあと聞いていて思いました。まずはそこにずっといたいという環境をどうやって作るか、どれだけその人にとっての楽しみの選択肢を用意できるかというのを初めに考える。それがダメだったら、次々と別の対策を考えて行くわけですが、100人いたら100通りの理由や言い方を考えなければならないかもしれないですが、何か1つその人にとっていい方法がきっとあると信じて、この場所に納得してもらう理由を探していければと思いました。興奮して暴力的になった人がいたとして、初めからそういう人がいたのではなくて、そうなってない人も、そうなる前にたまたまいい方法が見つかったから興奮するまでに至っていないだけで、誰でも嫌なことばっかり意味も分からずさせられたら我々だって最後は爆発してしまうかもしれない。その人が怒りっぽいとか、その人が暴力的なわけではなくて、そこ至るまでに良い方法が見つからなかったからそこまで行ってしまったという風に考えたいなと。どれだけの作戦を練れるか、その人に合う方法が1つはあると思うのでそれをこれからも考えながら日々の現場で頑張ってほしいと思います。ありがとうございました。

川瀬敦士(川瀬,リハ) これで第2回認魂研修会を終わりにしたいと思います。皆さん、どうもお疲れ様でした。