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認魂レポート

第4回テーマ : 「食事問題」にどう対応するか?      

参加者:

【介護職】石川雅子1 鈴木留美子2 土田友美3 角田美香2 富所千早3 原島哲志1
【介護支援専門員】渡辺美佳子1
【グループホーム管理者】高野栄子4
【作業療法士】川瀬敦士1
【言語聴覚士】廣瀬望1
【看護師】坂井美和子1
【管理栄養士】佐野彩花1
【医師】川瀬康裕1 川瀬裕士1
【認知症地域支援推進員】川瀬弓子1

介護職・グループホーム管理者・・・以下「介」
介護支援専門員・・・以下「CM」  管理栄養士・・・以下「栄」
作業療法士・言語聴覚士・・・以下「リハ」  看護師・・・以下「看」  認知症地域支援専門員・・・以下「地域」

1)川瀬神経内科クリニック、通所リハビリ樫の森・かわせみ、サービス付き高齢者向け住宅かえるハウス(以下「川瀬」)
2)愛の家グループホーム三条上須頃(以下「GHA」)
3)はあとふるあたごグループホーム三条(以下「GH-B」)
4)グループホームふれあいの杜三条(以下「GH-C」)

 


 

氏  名(所属・職種)

川瀬敦士(川瀬・リハ) 司会の川瀬神経内科クリニック作業療法士の川瀬と申します。よろしくお願いします。今回で4回目になりますが、もう何回も参加している方もいらっしゃいますが、今回初参加の方もいらっしゃいます。まず始めに最初に副院長より会の目的を説明してもらいます。


川瀬神経内科クリニック 作業療法士 川瀬敦士 氏

川瀬敦士(川瀬・リハ) 今回食事がテーマと言う事で、管理栄養士さんや言語聴覚士さんも来てもらっています。早速まずは現状の確認ですが、認知症患者において食事に関わる何かしらの問題を抱えている人は多いです。十分な栄養を摂れない、栄養の偏りや偏食がある、誤嚥のリスク、食事を楽しめていない、食事介護の負担が大きい、などがあります。次に食事問題に対応することの意義ですが、誤嚥や窒息などのリスクを減らし安全に提供する、十分かつ適切なバランスの栄養を摂る、低栄養を是正し、筋力低下・褥瘡などを改善する、という身体的な部分での意義と、食事を楽しむ、介護負担を軽減する、在宅や施設生活を継続できる、ということなどが考えられます。認知症の方のいわゆる問題行動は周辺症状(BPSD)と言われますが、最近ではチャレンジング行動と言われることもあり、つらい状況を本人なりに変えよう、思いを伝えようと努力した行動の現れであると言われています。BPSDは(認知症という病気の)症状という感じの捉え方ですが、(チャレンジング行動は)ごく普通に上手くいかない時に、もがいた行動の結果という考え方だそうです。当事者の声、どういう思いでいるのかをしっかりと考えて解決策を考えていかなければならないと思います。そこで、食事に関しての本人の気持ちを想像してみますと、(食べた後なのに)まだ食べてない、自分だけ(食事を)もらえない。これは記憶力の低下で覚えていられないことでそういった思いがあると思われます。その他に食べ物が認識できない、見えない、食べ方がわからない、道具の使い方がわからない、といったこともあるでしょう。また、味覚が変化する、(味を)感じない、匂いが分からない、ということもあります。認知症に先行して嗅覚が落ちる方もいるようです。また普段の活動量が減り、動かないからお腹がすかない。ほとんどの認知症は嗜好が甘いものに傾くということもあるようです。一方、介護者やご家族の気持ちとして、早く食べてほしい、バランス良く食べてほしい、人の食事に手を出して困る、食べた事を忘れて食事を求める、食べ過ぎて困る、少ししか食べない、水分を摂らない、(食事)介助に疲れた、誤嚥が心配、同じものばかり食べる、食べ物ではない物を口にする、などがあるようです。(認知症の介護に関する複数の書籍から食事に関する介護の仕方やポイントの一部を会場で供覧)

川瀬裕士(川瀬・医師) 川瀬神経内科クリニック、神経内科医の川瀬裕士と申します。この会の目的は認知症の方に関わって仕事をしている人が集まって様々な問題を話し合い、より質の高いケアの方法を見つけることです。そしてその方法をインターネットなどで発信し、認知症の人と一緒に暮らす御家族や介護現場で働く多くの人に知ってもらうことです。認知症のケアは経験とテクニックと忍耐がいるものです。また薬で治せる部分もありますが、どうしても薬だけでは治らない部分もあり、基本的には徐々に悪化していきます。認知症の介護というとものすごく重荷のようなイメージが必ずつきまとってくると思いますが、認知症になった本人たちがまず一番苦しんでいる、そして介護をする家族も疲弊しているという状況があります。認知症になったことで家族の関係性が悪くなり、かなり悲しい状況になってしまっているケースを外来でたくさん見ています。皆さんもそういったご家族の関係を見たことがあると思います。また一方では家族との関係性が非常に良くて、認知症の程度が悪くても、その認知症の人も家族もともに幸せそうに見えるようなケースも見たことがあると思います。その違いというのは、認知症の人がどうかということよりも、家族の介護の仕方に大きく左右されるのではないかと思うことがあります。そこで我々が今日のこの会などで、もう少し上手な介護のやり方、接し方などの方法を示せればいいなと考えています。今回は4回目で食事の問題です。認知症の人の約85%が食事に関する何らかの問題を抱えていると言う報告があります。低栄養、誤嚥性肺炎、偏食(好きな物しか食べない)、食べないなど、様々な問題があり実際は、認知症の多くの人が抱える問題だと言われています。また低栄養が認知症になる確率を上げることも報告されております。また美味しいものを食べるということは認知症の人にとっても大きな楽しみの一つです。今日も是非活発に話し合っていただければと思います。それではよろしくお願いします。


川瀬神経内科クリニック 医師 川瀬裕士 氏

川瀬敦士(川瀬・リハ) それではここから当法人で経験した例をいくつか紹介します。

 

食べた事を忘れる

川瀬敦士 まずは訪問リハビリの事例です。食事が終わったが、食べた事を忘れて家族のものを食べようとしたり、「まだ食べてない」と何度も言ったりする。対処として、食事したことを記憶に留めておけるように、①最後に配膳する、②食べた後も食器をしばらく眼の前に置いておく、③いつも同じ食器を使う、④食後しばらくの間、食べた食材などについて話しをする、といったことをしたそうです。ポイントとして、一番美味しかった食べ物の話しをするなど食事について振り返る時間を設けることで食事したことがより記憶に残りやすくなるようにしたそうです。してはいけないのは「今食べたでしょ!」などと強く否定することだそうです。

 

覚醒度

川瀬敦士 次は当院外来の事例です。坂井さんお願いします。

坂井美和子(川瀬・看) 重度の認知症があり、朝食時の飲み込みが悪く、食事に時間がかかっていた方でしたが、朝に悪い原因は覚醒状態が不十分であったと考え、食事前に冷水につけてしぼったスポンジで口腔ケアをしたり、ホットタオルなど顔面の清拭をしたりして、覚醒度を上げることによって、その後の食事が改善した例がありました。


川瀬神経内科クリニック 看護師 坂井美和子 氏

食べる環境〜自作・外で・ワンプレート・甘いもの

川瀬敦士 次は樫の森(通所リハビリ)からです。

石川雅子(川瀬・介) 自分で作った食べ物、おやつなど、料理プログラムの時ですが、ほとんどの方が全量摂取されます。外食や野外などでは普段と違うせいかあまり食事が進まない方も積極的に食べている気がします。これは庭に出てカラーライス食べることなどです。たくさんお皿が並んでいるだけで、お腹がいっぱいとおっしゃる方には、ワンプレートに盛り付けたり、小盛に見える器を使ったり、その方に合った盛りつけの工夫をする。また時々甘いものを口に入れると次の食べ物が進むので、デザートだとか、メニューの中でも順番を工夫する、などがありました。


川瀬神経内科クリニック 介護職 石川雅子 氏

食べる環境 〜味見・半分こ・茶碗の色・会話・体操

川瀬敦士 もう少し樫の森の事例です。

石川雅子 「味見して下さい」とか「半分こにしよう」と声をかけて一口進めば、その後も進むことがあります。また目が悪く白い茶碗ではご飯が見えないので、黒い茶碗を使用することで完食できた方もいます。食事までの時間の過ごし方が重要なのでコミュニケーションをとって、会員さん同士、スタッフ同士、仲間意識を高めて、あとはプログラム、体操などで脳と身体を適度に疲労させ空腹感を高めるという、食事をする前の居心地の良い過ごし方を意識しています。

川瀬敦士 「味見して下さい」と言ったことの意味は?

石川雅子 「私はうちに帰って食べるからいらない」、「ここではご飯は結構です」と言って食べようとしない時に使いました。

川瀬敦士 「ここでご飯は結構です」と言って食べ始めない人などに対して使うのですね。

石川雅子(川瀬・介) 例えば農家の人で、「菜っ葉なんかいらねー」と言っている人に、「今日は隠し味が入っているので味見して下さい」と言うと、「うんめー(うまい)ねー」と言って全部食べたりすることがあります。

川瀬敦士(川瀬・リハ) 「半分こにしよう」と言った人はどんな人だったのですか?

石川雅子 小盛でも(量が)多いという方で、「私が半分もらうから、半分どうぞ」と言うと「じゃあもらおうかな」と言います。半分手を付けて残すのは行儀が悪いと思う時代の方が多いので、「おまえさんが半分食べてくれるんだったら、食べようかな」と言ってくれます。

川瀬敦士 なるほど。残すのが悪いと思う事はありますね。

石川雅子 「手つけてねっけ(手をつけてないから)、食ってくれね。」と言われます。

川瀬敦士 他の方で何か意見や質問などどうでしょうか?角田さんどうですか?

 

偏食

角田美香(GH-A・介) ホームに居られる60代の若年性認知症の方で男性です。以前、社長業をやっていた方で自分は社長だという意識の高い方です。ずっと仕事を終わってから飲み屋さんに行って食事をとる生活をしていたので、そういった物しか食べたくないと言っています。その方には皆さんと同じ食事を出していますが、野菜や煮物は一切食べてくれません。自分が今まで食べてきた食事、こういうものしか食べないといった意識の強い方です。この方にどのように食事を勧めていいのか難しい状況です。


愛の家グループホーム三条須頃 介護職 角田美香 氏

川瀬裕士(川瀬・医師) グループホームなので朝昼晩と一日三食ということですね? 絶対食べてくれないものやこれだけは食べるというものはありますか?

角田美香 野菜は全く食べません。だから量が足りないのか、ご飯は好きなので多めに食べます。おかずは、揚げ物(コロッケなど)以外は食べません。飲み屋さんで出てくる食事を好まれているようです。一度お皿を他の皆さんと違う小皿に変えて出した時はホームを飲み屋さんと思い込み、食べてくれた時もありましたが、慣れてきたのかだんだんとまた食べてくれなくなりました。

川瀬敦士 このような偏食の方はいますか?高野さんどうですか?

高野栄子(GH-C・介) 男性の方は結構いらっしゃいますね。うなぎと寿司しか食べないとか。周りの入居者さんが進めることで最近は完食するようになってきました。職員ではなく同年代の自分の奥さんと同じくらいの方に「これ美味しいよ」と声かけをお願いしています。職員が言うと「俺、絶対食べない」と言われます。また外食に行くことで気分転換を計ってみたりしています。お腹が空けば食べると思います。


グループホームふれあいの杜三条 グループホーム管理者 高野栄子 氏

角田美香 社長業をやっていて、もともと性格が頑固な面もありまして、今周りに入居されている他の方を自分のところの従業員だと思いこんでいて、誰かが何かを言う事に対してすべて不満に思っているようです。またお酒も飲まれる方ですが、家族の意向で安いお酒になったら飲みたくないと言います。おやつは柿の種じゃないと食べません。本当に偏食が強い方です。
川瀬敦士 医療的にはどの程度(偏食を)コントロールしなければいけないのでしょうかね。社長さんタイプは言い方などで案外乗せやすいということはないでしょうか?
原島哲志(川瀬・介) そうですね。かえるハウス(サービス付き高齢者向け住宅)にはたくさんの社長さんがいます。やはりそういう生活を送ってきているのでわがままにみえる所はあると思いますし、プライドもあると思います。また基本的に男は野菜を食べないと思います。私も食べないかもしれません(笑)。無理やり食べさせるべきなのかどうかだと思います。以前、週1回通所リハビリに来ていた方で本当にいつも全く食べない方がいましたが、その方がある日食べたのはうな玉丼でした。ただ毎日の食事だと難しいと思います。かえるハウス(サービス付き高齢者向け住宅)でも最近不満が出ていて、奥様に電話を掛けて筋子や鱈子を持ってきてもらって冷蔵庫に保管しておいて食事の時に少しずつ出しています。あとは先ほども言われたように月に1回の外食ツアーに行っていますので、何が食べたいかを聞いてお寿司屋さんに行ったりおそば屋さん行ったり焼肉屋さんに行ったりしています。外食ツアーがあるので普段は我慢して納得して頂いている方もいるかと思います。こまめに栄養士に相談しながら工夫しています。


川瀬神経内科クリニック 介護職 原島哲志 氏

川瀬敦士(川瀬・リハ) 調理法で何か工夫できるといいのですね。野菜だけ食べない方は、野菜ジュースもだめですか?

角田美香(GH-A・介) 駄目です。本当に揚げ物だけです。

川瀬敦士 例えば自分で料理を作って食べるとかは?

角田美香 社長なので料理はしません。外食についてはご家族の意向でホームから外出を禁止されている方なので、外食も今までできない状況です。よって本人のストレスも相当たまっていると思います。そういう家庭の事情も原因になっています。

原島哲志(川瀬・介) 出前がいいのではないですか?またその方の好きな物を作るとか。

川瀬敦士 その方の好きな物を聞いてみてはどうでしょうか?

角田美香 もともと飲み屋さんで常に食事をしていたようです。このような生活スタイルでずっときているようで、家庭料理は食べない生活をしてきたようです。

川瀬裕士(川瀬・医師) ある程度年を取ってきたら、やっぱり好きな物を食べさせてあげたいという気持ちはありますが、限度もあって、その方にはもうちょっとバランスよく食事をとってほしいという事ですよね。リハビリの廣瀬さん(言語聴覚士)、食べさせ方とか料理の仕方とか何かいい方法はありませんか?

廣瀬望(川瀬・リハ) 洋風のスープとかだめでしょうか?ミネストローネとか。ただそれを作るとなると大変ですが。


川瀬神経内科クリニック 言語聴覚士 廣瀬望 氏

佐野彩花(川瀬・栄) 今日のかえるハウスの夕食はキャベツ入りのメンチカツです。肉とキャベツを半々くらいに使っています。


川瀬神経内科クリニック 管理栄養士 佐野彩花 氏

川瀬裕士 確かに。揚げ物の中に野菜が入っているのはどうでしょう

川瀬敦士 アスパラのベーコン巻の様な物は?

鈴木留美子(GH-A・介) 献立が決まっているのでみんな同じ内容で個別対応はなかなか難しいです。

川瀬敦士 毎回同じメニューだと我々も絶対飽きますね。例えばおいしいお弁当屋さんでも毎回食べていたら絶対食べたくなくなりますよね。同じ作り手の物をずっと食べているとそういうことになると思います。

土田友美(GH-B・介) 献立について一つ質問があります。私たちのグループホームでは、入居者さんと一緒にメニューを決めていますが、他のグループホームさんはどうですか?


はあとふるあたごグループホーム三条 介護職 土田友美 氏

鈴木留美子(GH-A・介) 一月分の献立が本社(食事部門の部署)から送られてきます。入居者さんに合わせたメニューには対応できません。

坂井美和子(川瀬・看) 献立は決まっていても自分の所で作っているのであれば少しアレンジは出来ないのでしょうか?

川瀬敦士(川瀬・リハ) 持ち込みは出来ないのですか?

鈴木留美子 野菜など、いただいた物を使ったりはしますが、メニューを変えたことはありません。

川瀬敦士 あとは居酒屋さんでどんなものを食べていたのかそのメニューをよく聞いてみるのはどうでしょうか。そのメニューの中には野菜が入っていたものがあったかもしれません。

川瀬裕士(川瀬・医師) 間食系は食べますか?

角田美香(GH-A・介) 甘いものは食べられず、柿の種が中心で、ご家族も柿の種とお酒を持ってこられます。甘いもの、デザートは必ず残されて、女性の方にあげようとしています。お酒に合うものを好まれるようです。

石川雅子(川瀬・介) (飲み屋さんで出そうな)茄子漬や、枝豆はどうですか?

角田美香 枝豆は夏には食べています。好きでした。

石川雅子 串揚げや天ぷらも野菜を取れます。

川瀬敦士 偏食にどう対応するか。いつくか意見が出ましたけれども、そろそろ次に進めます。

 

茶碗の色、ミニおにぎり

川瀬敦士 先ほど石川さんから言っていただいた、目が悪く白い茶碗ではご飯が見えないので赤い茶碗を使用している例の写真です。見やすくなっていますね。次の写真はかえるハウス(サービス付き高齢者向け住宅)で一口おにぎりにして箸でつまみやすくして食べて頂いた例です。このような食事形態の工夫は皆さんの所でも行っていますか?

【 写真 】

【 写真 】

富所千早(GH-B・介) 私のグループホームでもこの様におにぎりにしています。お椀だと深すぎて見えない人には箸でつまみやすいサイズにして5個位お皿に乗せて食べて頂いています。


はあとふるあたごグループホーム三条 介護職 富所千早 氏

川瀬裕士 大きいおにぎりじゃなくて小さいおにぎりにして、ですね?

富所千早 大きいおにぎりの時もありましたが、ぼろぼろ落ちたりして食べにくそうだったので、やはり箸で持って一口で食べられた方が本人も食べやすいし、また食べている途中で疲れて寝てしまう人もいるので。

川瀬敦士(川瀬・リハ) 鈴木さんのところでもこのようなことはやっていますか?

川瀬裕士(川瀬・医師) おにぎりの話は結構介護の本にも出てきますが、大きいおにぎりより小さいサイズにまとめた方が掴みやすいとか一口で入りやすいとかあるのでしょうかね。ご飯茶碗に盛ってあるごはんの山から丁度良い適量のご飯を(箸で)つまみ上げることは結構難しいことなのかもしれませんね。

鈴木留美子(GH-A・介) 皆さんちゃんと食べられているのでこのようなことはやっていません。98才の方もいますが、ちゃんとご自分で食べています。

川瀬敦士 高野さんの所ではどうですか?

高野栄子(GH-C・介) 脳梗塞の後遺症で本人から「こぼしてしまうのでおにぎりにしてほしい」と言われて、そうしていますが、おにぎり(普通の大きさ)をお箸で食べているので上手くいかないようです。この小さいサイズのおにぎりはいいと思います。参考になりました。

廣瀬望(川瀬・リハ)(大きいおにぎりは)手が汚れてしまうこともあります。箸を持ち変える時、手が汚れているのが気になる方もいます。

川瀬敦士 箸は使い慣れていることもありますので、(手の運動機能として)長く使えると思います。嚥下的にはどうですか?

廣瀬望 このくらい(一口大)の大きさであれば丁度良く一口で食べられる大きさですし、窒息の危険が少なく良いと思います。結局はその方の咀嚼能力によりますが、もともと米飯を食べられる嚥下能力があれば口の中でばらけるので大丈夫だと思います。

 

錯視;周囲のもの

川瀬敦士 次の写真は幻視の症状で見え方が変わり、壁のシミなどが人の顔やお化けの顔に見えている場合もあるようです。レビー小体型認知症の方で、食べ物が人の顔などに見えてしますという訴えはありますか?

川瀬裕士 レビー小体型認知症では、ゴミとか虫が乗っているからご飯を食べたくないと訴える人もいて、(実際に)そのように見えてしまいます。見間違えが多く、本当にそうだと思い込んでしまっているようです。〈ゴミがついているから食べたくない〉と、口にはしないけど思っていて食べていないということがあるかもしれません。

【 写真3 

 

高野栄子 自室にある椅子が人に見える方もいます。

川瀬裕士 自分がいつも座っている席から見える外の景色の何かが人のように見えてしまっていて、気になって嫌がっている時もあるので、少し工夫してあげると(気にならずに)集中して食べられるようになるかもしれません。レビー小体型認知症に限ったことではありませんが。

 

錯視;丼もの、カレー系

川瀬敦士 次の事例に移ります。角田さんお願いします。

角田美香(GH-A・介) レビー小体型認知症の女性の方です(Aさん)。やはり先ほど例に出たのと同じですが、カレーライスやどんぶりご飯の際に、ご飯の上に載っているものが全てゴミや汚れ物に見えてしまって、そのように見えると興奮して、自分にそのような物を出して、と怒られます。この方に対してはお皿を別々にして、カレーのルーだけ、ご飯だけ、カツ丼のカツだけ、ご飯だけというように工夫したことで多少は食べられるようになりました。ただ麺類の時ですと、焼きそばやうどんが食べ物じゃないものに見えてしまって、こんなものは食べられない、食べ物じゃない、と訴えられます。ごくまれに食べる時もあるので、小皿に焼きそばとご飯を小盛で別々に盛って提供しています。

川瀬敦士(川瀬・リハ) なるほど。すごい勉強になります。ワンプレートにすると良いということも聞きますが、逆にミックスされてかえってそれが違うものに見えてしまう場合もあるのですね。反対に別々の皿に分ける対策を取って上手くいったという事ですね。またこの方は食器の中の食べ物を一緒にしたり、器の中の物をもう一方の器に移す事を繰り返し行ったりするのですか?

角田美香(GH-A・介) ゴミのような何かご飯ではない別のものに見えると、それを全部一つの器にまとめて破棄しようとする行動です。

川瀬敦士 目的があるわけですね。

角田美香 そして最後にお茶が入ったコップで流してしまおうとします。食べ物じゃないから全部流そうとする行動も見られます。

川瀬敦士 それこそチャレンジング行動とういか、汚れ物を一生懸命、自分は整理してきれいにしようとする行動の現れで、ちょっとずれちゃっているようですね。だからあらかじめ整理した状況で提供してあげることで、食べやすくなっているのかもしれないという事ですね。

角田美香 日頃からちょっとしたことがその人にとってはゴミに見えてしまい、どうしても食事をとることが難しいです。白いご飯はご飯と認識してくれますが、おかずがゴミに見えてしまうようです。例えば色が黒や茶色なのを見ると、びっくりされて驚かれてしまう事があります。

川瀬裕士(川瀬・医師)虫とかには見えない?

角田美香 虫は言わないです。よく「ゴミ」という言葉を聞かれます。

川瀬裕士 茶色、黒っぽいゴミですね。

角田美香 はい、(その方は)必ずゴミですね。「ゴミが入っている、ゴミが入っている」と言います。

川瀬敦士 今のこの例に関して何かご意見はありますか?

土田友美(GH-B・介) うちグループホームでもありました。

川瀬敦士 それは同じような背景があるのでしょうか?

土田友美 レビー小体型認知症の方で、食べ終わって残したものをお茶碗からお茶碗へ移したり、自分で洗おうとして、要らないものを床に捨てたり、ばらまいたりします。

川瀬裕士 認知症の程度としてはどうですか?

土田友美 ADLは落ちていますが、認知症の程度としてはそんなに悪くはないです。

川瀬裕士 普通の会話はできますか?

土田友美 意志の疎通は少し難しいと思います。

川瀬裕士 それなりに認知機能は低下してきているかもしれませんね。

川瀬敦士 8割食べて2割がお腹一杯なので、食べ残しを最後に後片付けするための行為であるならばわかりますが、最初からこれが汚物だと思ってしまうということであれば問題です。

 

便秘

角田美香 (またAさんは)これはこれでうまくいきましたが、排便の方も難しくて、便秘で食べられなくなってしまって、排便が無いと食事以外の時でもだんだん落ち着きが無くなることが多いです。下剤を服用されている他に腹部のマッサージをしたり体操したりと、排便がうまくいくように色々と工夫はしているのですが、なかなかうまくコントロールができません。お腹が張って座っているのも出来なくなってしまいます。

川瀬敦士 生理的な欲求が背景にあって、食事の前にトイレに行ってから食事につきましょうと言うことや、先ほど坂井さんが言ったようにしっかり覚醒してから食べようとか、いろんなことがあるのですね。

 

赤ちゃん人形

角田美香 またこの方(Aさん)は子供が好きで、自分の子供にあげたいので食事を取っておくとよく言われます。日頃から自分の子供を「どこ行った?」と言って探されています。そこでお人形を渡したらすごく喜ばれて、自分の子供だと思っています。そのお人形を隣に置いておくだけで落ち着かれたという例もありました。女性の方でペコちゃんのお人形のような人型、女の子のかわいいお人形を見ると自分の子供だと思い抱きしめて、夜も一緒に寝ています。日中も便秘傾向で落ち着かない時でもお人形を渡すとすぐに落ち着かれたこともありました。

川瀬裕士(川瀬・医師) その人にとってはとても意味のあるグッズの一つであって、それが無かったら様々な場面で問題があるところが、それがあることでうまくいったようですね。今回は食事の場面ですが、良い解決策を見つけられたようですね。

川瀬敦士(川瀬・リハ) 樫の森(通所リハビリ)でも同じような方はいますか?

石川雅子(川瀬・介) 今まで怒っていた人に「はい」と人形を渡すと「泣かないでいい子だね」と言って落ち着く方もいます。

川瀬裕士 どういうお人形がよいですか?

石川雅子 やっぱり、赤ちゃんらしいというか、動物とかではなく。

川瀬裕士 乳児系ですね。そういう方はほとんど女性ですか?

石川雅子 そうでもないです。でも女性の方が多いです。

川瀬裕士 赤ちゃんぽい感じのお人形が良いということですが、(プラスチック製などの)カチカチの固いものではない方がいいのでしょうか?

角田美香(GH-A・介) 私たちのグループホームの方はカチカチの人形でも何でも、自分の子供だと思って、近くに置いておくだけで安心しています。

 

食べ始めない

鈴木留美子(GH-A・介) うちのユニットの入居者さんですが、最初は、ご飯、おかずと普通に食べられていましたが、その後、一品ずつ食べるようになったんですね。それでその後は、皆さんが「頂きます」と言ってもボーッとして食べません。「食べましょうね」と声をかけて、箸を持たせないとだめですし、それでもダメな時は、一口、口に入れてやるとご飯を認識して、「ああ、美味しいね」と言って食べ始めます。そういう方が今いらっしゃいます。

川瀬裕士 完食とか8割くらいは最終的には食べますか?

鈴木留美子 全部食べます。時間はかかりますが。

川瀬裕士 スタートの部分でちょっと介入するということですね。

鈴木留美子 そうですね。あと途中で箸を置いて食事をやめしまうこともあります。

川瀬裕士 何歳くらいの方ですか?

鈴木留美子 84か85歳ですね。

川瀬裕士 便秘とかはないですか?

鈴木留美子 ないですね。快便です。

川瀬裕士 食べることというのは認識しているんですか?

鈴木留美子 していると思います。

川瀬裕士 間食や甘いものなど積極的に食べるものもあったりするんですか?

鈴木留美子 おやつも最近は目の前に出しても、ボーっとしていて、「おいしいよ」って言っても、なかなか手がつかない状態です。

川瀬裕士 どこかが痛いわけでもないし、便秘というわけでもないし、いわゆる自然な食欲がわいてこない状況ですね。

鈴木留美子 水分補給をしてもらいたいので、お茶なんかも残っていると目の前に置いておきますが、なかなか飲んでくれません。

川瀬裕士 今日は製薬会社さんもいますが、薬によってもね、ちょっと食欲が出るものもありますし、逆に食欲が低下する薬もあります。便秘になるものありますし、吐き気が出るものもあるし、下痢になるものもあります。認知症の薬は、認知症に対する薬なんですが、それだけでも色々な(食事に対する)影響があります。

鈴木留美子 最近は遊びも始まっています。デザートのみかんの缶詰をご飯の上に載せてしまったりとか。

川瀬敦士 その方は、ワンプレートにすることで食べられるようになったのですか?

鈴木留美子 食べています。全部食べます。

川瀬裕士 最初に12回手を添えて食べさせれば食べてくれるのですね。さあ食べようという気持ちのスイッチが入りにくいという事ですね。

川瀬敦士 食べ初めに苦労することは富所さんの所ではありますか?

富所千早(GH-B・介) あります。食べる物、これが何かが分からなかったり、眠気が強かったり、箸を持つまで時間がかかったりしますけど、それで職員や他の入居者さんが一緒のテーブルで食べて、「今日のご飯は○○で、おいしいですね」、「この時間が食事の時間ですよ」とか
今、目の前にあるのが何なのかを説明して、「このおかずにはこういう材料が使われていますよ」とか言って、食べてもらったりしています。何が入っているのか分からないと不安だと思います。ただ食べて下さいと言っても、先程ありました毒が入っていると思ってしまう人もいますし、馴染の顔や、皆が食べているなら安心だろうと思わせることも必要だと思います。

川瀬敦士(川瀬・リハ) 食事前にレクリエーションをして仲間意識を高める事や、高野さんの所では食事前に食欲の増すような声かけをされているようですが。

高野栄子(GH-C・介) ご飯の炊ける匂いとか、「今日こんなものを作ったけど、どうかな?」と味見とかはすごく食欲をそそると思います。

川瀬裕士(川瀬・医師) 実際に食べ始める前までに、料理に対して認識してもらうというか、事前準備として階段を登っていくように積み重ねができればいいですね。

高野栄子 そうです。「出来ました。はいどうぞ」ではなく、その前から徐々に皆さんに食堂に来ていただいて、今日はこんなんですよ、と声を掛けるとか、私たちが調理している場面を見てもらったり、もしくはそこに参加してもらったり、グループホームは一緒に調理します。

土田友美(GH-B・介) ホットプレートを使うといいですよ。

高野栄子 (うちでも)1回焼肉をやったことがあります。大変でした。

川瀬裕士 自分で関わる、自分で作ると美味しいみたいな。

高野栄子 そうです。自分で焼くのがいいです。これからの時期は鍋がいいですね。

川瀬敦士 匂い、嗅覚は大事ですね。

川瀬裕士 目もありますよね。視覚。彩りが良いと楽しく食べられますね。

川瀬敦士 樫の森(通所リハビリ)では、食事の前に介護職ではない作り手の栄養科の方がメニュー紹介を行っていますね。

佐野彩花(川瀬・栄) 朝昼晩と3食提供する前に、今日のメニューはご飯と主菜が何々と言っています。納品された時にどこ産の何々と聞いていた時は、今日はどこ産のリンゴです。今日は信濃スイートというリンゴを使用しましたとか、ちょっと高い魚を使った時は、ちょっといいお魚を使用しましたとか言うと、残食が少なかったりします。

原島哲志(川瀬・介) 社長シリーズはブランドに弱いので、何々ブランドの何々ですと言って強調すると良いですね。特別感を出すといいです。

川瀬裕士 我々だってそう思いますね。

川瀬敦士 普通の食材でも特別感を出すと美味しく感じます。

原島哲志 この魚は寺泊1で今朝捕れた新鮮なお魚ですと言い方一つで変わります。

川瀬敦士 強調するとかね。

川瀬裕士 ちょっと過剰なくらいにやってもいいのかもしれませんね。

川瀬敦士 あとは献立表みたいな物も置かれていますか?今日のお昼のメニュー紹介等。

富所千早 献立表がないので、たまにホワイトボードを使ってやっていますが。

川瀬敦士 かわせみ(通所リハビリ)では一枚のメニュープレートを各テーブルに置いて、イラストと、どういう食材が使われているかを紹介しています。

川瀬裕士 最初から出しておくといいかもしれませんね。

川瀬敦士 口頭で最初に言うだけじゃなくて食べながら視覚的にあると、スーッと頭に入ってきます。いかに食材の良さを強調するかですね。

川瀬裕士 ウソにならない程度に強調するのもいいのかもしれません。

坂井美和子(川瀬・看) 是非、先程の社長さん(GHAの入居者)にやってみてはいかがでしょうか?

角田美香(GH-A・介) 本寺小路(地元の飲食街)のフレーズを出すと喜ばれます。

川瀬裕士 御品書きとかいいですね。だれか得意の方に書いてもらうとか。

*1 寺泊: 新潟県中部、日本海に面して漁業が盛んな港町

鈴木留美子(GH-A・介) それはやっています。お一人の方が次の日の朝、昼、晩と書いてくださいます。

川瀬敦士(川瀬・リハ) 食事が楽しみになりますね。

 

認知症以外の原因

川瀬敦士 次の事例に移ります。高野さんお願いします。

高野栄子(GH-C・介) 認知症の他にいろんな病気を抱えている方で、今は入院中です。嚥下がうまくいかなくて、のみ込めなく口の中にため込んでしまって、結局のみ込めないので出してしまいます。いい時と悪い時の波があり、最終的に時間を掛ければ食べることはできますが、食事量が低下してきているので、先生に相談し今は入院しています。

川瀬裕士(川瀬・医師) 疾患はわかっていないのですか?

高野栄子 いろんな疾患を持っている方で、貧血も結構重度のものを持っていて、そのせいか体が起きていなかったり、体幹も維持出来なかったり、糖尿病もあったり、あと脳梗塞も起こしています。どこに原因があるのかよく分かりません。先生が言うには認知症の進行によるものではないでしょうかと言われています。

川瀬裕士 何歳くらいの方ですか?

高野栄子 80歳です。女性です。そういう時は無理に食べさせない方がいいでしょうか?

川瀬裕士 なんで食べられないのかによりますが、食べたいんだけどうまく飲み込めなかったり、むせちゃったりするから食べられないという人もいますし。本人はしゃべれますか?

高野栄子 しゃべれます。

川瀬裕士 本人は食べたいのでしょうか?「お腹すいた。食べたい」とかは言いますか?

高野栄子 言います。

川瀬裕士 でも上手く口が動かせない、のみ込めない。食べたいけど食べられないわけですね

高野栄子 水分は取れます。結構ストローで飲んでいます。

川瀬裕士 だとすると(消化管の)通過障害などがありそうですよね。

廣瀬望(川瀬・リハ) ストローで飲めて、水分がいけるという事になると、嚥下機能としては結構いい機能を持っていると思いますが、ただ固形物をお口入れると出してしまう。咀嚼、モグモグはされますか?

高野栄子 モグモグはしますが、のみ込めません。

廣瀬望 うつ的なところはどうでしょうかね。

高野栄子 うつがあるのでしょうかね。今もいい時と悪い時ですごく波があって、食べられる時は食べられます。食べられない訳ではないのです。

廣瀬望 緊急性があれば高カロリー流動食とかが必要でしょうか。

川瀬裕士 認知症はわりと軽度ですか?

高野栄子 軽度です。受け答えもできます。以前に歩行が不安定な時もありました。

川瀬敦士 今の方は整理するとどういう事が考えられるのでしょうか?

川瀬裕士 認知症だけじゃない何か(身体的な障害)があるのですかね。食べられないという事一つとっても様々な原因があると思います。

 

 食べ過ぎる 糖尿病合併

川瀬敦士 次ですが、糖尿病管理が出来ない方、これは渡辺さんですね。紹介お願いします。

渡辺美佳子(川瀬・CM) 女性の方で、調理が出来なくなり、配食サービスを利用しているが、それ以外のものも買って食べてしまい、認知症の方なのでどれだけ食べたのか分からず糖尿病も改善しないケースです。


川瀬神経内科クリニック 介護支援専門員 渡辺美佳子 氏

川瀬裕士 家族が管理出来ないのですか?

渡辺美佳子 息子さんと二人暮らしで息子さんのお仕事が夜系で日中に関われない状況です。息子さんに買ってこさせています。本人一人では外には出ない方なので、要は息子さんの教育が重要ですね。

川瀬敦士(川瀬・リハ) バランスの良い配食サービスと利用するとか。

渡辺美佳子(川瀬・CM) 糖尿病の事を考えた健康メニューの配食サービスを利用していますが、食べたのを忘れてしまってどんどん食べたがるタイプの方です。

川瀬敦士 あるから食べてしまうですね。ご自宅で何か工夫すれば改善できるかもしれませんね。次はみそ汁に虫が入っている方、この例は先ほどからずっと出ていましたね。やはりレビー小体型認知症の方ですか?

渡辺美佳子 そうです。ただこの方がおもしろいなと思ったのが、いろいろ聞き取りしていく中で、ご家庭だとご本人の行動が遅いので、家族と一緒に食事が出来なくって、家だとこのように「みそ汁の中に虫やゴミが入っている」言いますが、通所のサービスを使っている時のお昼の様子を見ると、隣の人の行動をよく見ながら自分も食べていて、通所サービス利用中は虫が入っているとかは一切言わないです。

川瀬裕士(川瀬・医師) ちょっと疑っているけど、皆が食べているから大丈夫なのかなと思って恐る恐る食べてみたという感じでしょうか。

渡辺美佳子 そんな感じだと思います。雰囲気も大事だなと思いましたので、ご家庭でも家族皆さんと一緒に食事がとれるような時間の工夫が必要と感じています。

製薬会社 先ほどの糖尿病の管理が出来ない方のケースですが、例えば食べることが癖付いているのであれば、血糖値が上がりにくい食材、食品がありますので、そういった血糖値が上がりにくいものをご選択いただくことも手だと思います。低GI食とか手軽に手に入ると思います。野菜は比較的上がりにくいです。

川瀬裕士 こんにゃく系とかローカロリーおやつとかですね。

 

食事に集中できない

川瀬敦士 次は、話が止まらない方、今まで出てこなかった例ですね。

渡辺美佳子 口の中に物が入っていることが自分ではわかっていなくて、入っているのにしゃべります。食べさせようと思ってもしゃべりたくてしょうがない状況です。話を最後まで聞いてから次を食べてもらうと、とにかく時間がかかってしまいます。1時間くらい食事にかかってしまいます。

川瀬敦士 何か対策をお持ちの方はいますか?

石川雅子(川瀬・介) もっと自分(介助者)がしゃべるとか。

廣瀬望(川瀬・リハ) この方は介助で食べていますか?自分では食べたりはしないですか?

渡辺美佳子 介助で食べています。自分では食べません。

廣瀬望 ちょっと食事に集中できていないのでしょうかね。もし麻痺などが無いのであれば手を添えてあげて、何口か自分でスプーンを持たせて、それを見せながらお口の中にいれて食べさせてあげて。それで少しは止まらないでしょうか?

渡辺美佳子 自分で食べる機会を間に挟むという事ですね。

川瀬裕士 周りに誰もいなくてもしゃべっていますか?

渡辺美佳子 誰もいなくてもしゃべっています。独語に近いですかね。家族が反応してしまうと、また更に話をしてしまうのでとにかく刺激をしないでいます。

川瀬敦士 食べていない時でもしゃべりつづけている人なのですね。

渡辺美佳子 そうですね。

川瀬敦士 切り替えられないのですね。そういう方はいますか?土田さん。

土田友美(GH-B・介) しゃべったり鼻歌を歌ったりしながら食べる人はいます。口の中にため込んでのみ込みがうまくいかない状態で、(言語聴覚士の方に)嚥下の検査をしてもらった方で、喉のところでキュルキュル音がしていました。でも今は改善されています。(リハビリとして)おしゃべりしたり、歌を歌ったり、(ピューピュー伸びる)巻笛をやったりしています。

川瀬裕士 うちのクリニックの患者様ですか?

土田友美 はいそうです。

川瀬敦士 それはどういうことで改善したのですか?

廣瀬望(川瀬・リハ) 緊張がゆるんだりして、口の動きが良くなってのみ込みの良くなったのではないかと思います。

川瀬裕士(川瀬・医師) 意外と嚥下機能そのものは比較的保たれていた方でしたね。誤嚥性肺炎とかも心配でしたが、定石通り基本の嚥下のトレーニングをしてもらいました。

土田友美(GH-B・介) 周りが気になる方なのか、椅子の向きを変えるとか、(より食事に集中できる)環境を考えて対応しています。

川瀬裕士 素晴らしいですね。

川瀬敦士(川瀬・リハ) 食事に集中できる工夫というのは、角田さんの所もされていますか?

角田美香(GH-A・介) テレビが好きな方がいられるので最初の頃はテレビをつけたまま食事を提供していましたが、そうするとやはりテレビに集中してしまって、食事が難しいので、今度は皆さんのお好きな音楽をかけてみましたが、何名か、音楽が好きな方がいまして、歌ってなかなか食事に至らない方もいました。別のユニットではオルゴールをかけていたので、オルゴールをかけてみたところ、雰囲気が良く皆さん落ち着いて食事を召し上がることが出来ました。音楽だと皆さんノリノリで歌が止まらない状況でした。

川瀬裕士 どんな音楽をかけていたのですか?

角田美香 皆さん童謡が好きで次から次へと歌声が聞こえてきました。

川瀬敦士 雰囲気ですね。ラジオだったり、日本語だと皆さん影響されるので外国の音楽だったり歌詞が入っていなかったりがいいのでしょうかね。オルゴールはいいですね。ここまでで原島さん何かありますか?

原島哲志(川瀬・介) かえるハウス(サービス付き高齢者向け住宅)ではテレビをつけます。ただ金曜日はテレビをつけません。もともと樫の森(通所リハビリ)では昼食時、食事に集中してもらうため、一切テレビはつけていませんでした。その流れもあります。静かな日を金曜日に作って皆さんの状況を観察しています。

川瀬裕士 時にはわざと介入しないで様子を観察しているのですか?

原島哲志 誰がしゃべって誰がしゃべらないかなどを観察しています。あえてそういう日をつくっています。中には「静かでいいね」と言う方もいます。

 

飴、スルメ

川瀬敦士 他に食事に関してこれは聞きたいということはありますか?

鈴木留美子(GH-A・介) 飴やスルメとかは認知症の人に食べさせても大丈夫でしょうか?

廣瀬望 そうですね、飴はやっぱりのみ込んじゃったりするのも心配なので、スタッフの見ているところで舐めて頂くのであれば、棒付きの平たい飴がいいですね。スルメは噛むと唾液も出ますし、食欲も出るのでいいと思います。

川瀬裕士 複数の先生が書籍の中で、スルメやおやつ用の昆布なんかが、噛む訓練にもなり、食事を待てない人などに対して良いと書いてありました。

 

お餅

原島哲志 皆さん、お餅は提供されていますか?

土田友美 普通のお餅とかワラビ餅を作るとか。正月には普通にお餅食べています。

原島哲志 かえるハウス(サービス付き高齢者向け住宅)では餅だけは医師のストップもあってメニューとしては出していません。各自お部屋で持ち込んだものを食べてもらう分には良いですが。

川瀬裕士(川瀬・医師) 土田さんのグループホームでは(リスクもあると思いますが)それを承知の上であえて出している?

土田友美 お正月は皆さんお餅を食べたがりますので、スタッフの見守りのもとで食べてもらっています。

川瀬裕士 そうですよね、食べたいはずですよね。でも今年何か事故があったら来年はやめましょうってなりますよね?

土田友美 そうなりますよね。

川瀬裕士 ただそういうリスクを分かった上でやっているんですね。

川瀬敦士 掃除機を用意しておいてね。吸引するために。

土田友美 (もしつまったら背中を)叩けばいいんですよね?

佐野彩花(川瀬・栄) かえるハウスでは(サービス付き高齢者向け住宅)正月の三箇日はおやつで白玉を出しています。お豆腐と白玉粉半々で作っており、結構歯切れが良くて食べやすいです

川瀬裕士(川瀬・医師) 家族によっては、もしお餅を食べて何かあった時には、「なんで餅なんか?」と言われる可能性もありますよね。堂々と自信を持ってお餅を提供している施設は多くはないのかもしれないですね。(お餅を食べさせてあげるということは)良いことなんですけどね。よく頑張っていると思います。

川瀬敦士(川瀬・リハ) お餅は鈴木さんの所では提供していますか?

鈴木留美子(GH-A・介) お餅は1年目に1回やったきりです。(お餅をやめる)選択をしたかどうかは分かりませんが。杵と臼がなかったのかもしれません。

原島哲志(川瀬・介) 道具の問題ですか(笑)

川瀬敦士 高野さんの所はどうですか?

高野栄子(GH-C・介) 今年の4月開所でこれからですが、同じ事業所のグループホームでは杵と臼があるので餅つきをして提供しています。

川瀬裕士 大丈夫そうな人と危ない人と分けて考えているのかな。

原島哲志 お餅を提供して万が一のことがあった場合、必ず事業所の責任が問われますよね。餅つきは何度か見せたことはありますが、食べさせたことはありませんでした。

川瀬裕士 日本では毎年何人かは(お餅で)お亡くなりになっていますよね。

高野栄子 煮込めばトローっとするかな。

川瀬敦士 自分の家族だったらどう思いますかね。家族の承諾があれば食べさせてあげるとかね。

土田友美 危ない方にはマンツーマンでついて。

原島哲志 危ない人に食べさせるんですか?(笑)

川瀬敦士 最後にお餅の話題でこんなに盛り上がるとは。

川瀬裕士 でも(我々日本人にとっては)大事な問題ですよね。

川瀬敦士 それではまとめです。(スライドのとおり)

 

まとめ

食事問題に役立つ実践介護テクニック

食事前にできること

覚醒 ↑ (顔拭き)
仲間意識 ↑ (会話)
空腹感 ↑ (運動・料理の匂い)
食材の工夫(甘いもの・外食など)

食事場面にできること

視覚的援助(色・向き見やすく)
声かけ援助(「味見してください。」「半分こしましょ。」)
食べ方援助(食器を持たせる)
食べやすい姿勢(テーブルは腹の高さ、車いすより椅子)
食べやすい速さ(どんどん下膳しない・同じ速さで食べる人同士)

その他考慮すべきこと

薬の副作用
うつの影響
味覚異常(亜鉛欠乏)

感想

川瀬敦士 最後に一言ずつ感想を言っていただきたいと思います。

土田友美 ありがとうございました。勉強になりました。お餅の提供について再検討したいと思いました。

富所千早(GH-B・介) ありがとうございました。自分の事業所だけでなく、他の事業所さんの所でも似たようなケースや問題がいろいろあるのだと分かって、そのような事をこういう場で意見交換をして、解決する方向に持っていければいいなと思いました。

佐野彩花 今日はありがとうございました。いろいろな所のお話を聞けて勉強になりました。その中でも、最近、私も利用者さんとお話する機会がありますが、外食がお好きな方がいられるというお話を聞いて、夕食に一品、味が濃い物や外で食べるような物を入れるのもいいと思いましたし、またここの利用者さんで多いのが、昔から食べているものがほしいという声が多くてその点についても勉強しようと思いました。なかなかこういう皆さんが集まる場に出て行くことはないのでとても良い勉強になりました。

石川雅子(川瀬・介) ありがとうございました。私が20年前にここの施設に見学に来た時は、マンションの一室で認知症の方を集めてリハビリをしている時で、その日のお昼が忘れもしない小皿が13皿あって、どこそこからもらったブドウだったり、誰々さんからもらった漬物だったり、それに感激にて就職を決めました。今日まで楽しく美味しいご飯を食べさせてもらい、こんなに育ちましたけれども、また利用者さんもここのお昼が美味しいと言って下さる方もたくさんいますので、おやつも含めて楽しく美味しく皆さんに召し上げっていただければいいなと、心新たにしました。ありがとうございました。

高野栄子(GH-C・介) 本日はどうもありがとうございました。初めて参加させて頂きましたが、すごく貴重な声を聴けて良かったと思います。ワンプレートを検討している最中だったので。グループホームでは入居者さんと一緒に食事を作ったりしており、洗い物がすごい量です。私は介護の現場にはあまり入っていませんが、その洗い物の量を見ると、とても手伝いたくなるような本当にすごい量です。それよりも入居者さんに関わって頂きたいと思うので、そういった意味でワンプレートにすると洗い物が減るかなと単純な発想で思いました。きっと認知症の方にとって彩りを考えるとたまにはいいのかなあと思いました。朝食はパンとかを提供するのでその時、彩りを考えてワンプレートを取り入れてはどうかと思いました。勉強になりました。ありがとうございました。

鈴木留美子(GH-A・介) ありがとうございました。こういう場に出るのは初めてだったのでとても参考になりました。またうちの場合は調理師さんがいて、私たちが作ることはほとんどありません。たまに入居者さんと一緒にホットプレートで焼きそばを作る程度でした。今度、献立について入居者の皆さんと話し合って考えてみようと思います。ありがとうございました。

角田美香(GH-A・介) 今日はありがとうございました。いろいろな事情を抱えているご家庭の方がいて、今まで外食していたのに「外には一歩も出さないでくれ」と言うご家庭もあります。外出もできない、好きな物も食べられない、という方が実際にいられます。生きていく上で食事は本当に大事な事だと思うので、不安だったり不満だったりと辛いと思うので、それをいかに私たちがその気持ちを良いものに変えていけるかが課題だと思うので、こういう場に出させてもらってとても勉強になりました。ありがとうございました。

廣瀬望(川瀬・リハ) 今日はありがとうございました。普段はクリニックで嚥下評価という事で機能的な部分を見ていますが、その場での患者さんの様子しか分からなくて、付添いに来られた介護さんやヘルパーさんに状況を確認して評価やリハビリを行っていますが、やっぱり今日の皆さんの意見を聞いてその人柄だったり性格だったりその人の背景をよく見て対応していかなくちゃいけないと改めて勉強させて頂きました。皆さんの所へ出張したり、出向いたり、とフットワークを軽くしていきたいと思いました。嚥下は皆さんと関わっていくものなので、現場の皆さんと協力していきたいと思います。今後ともよろしくお願いします。

坂井美和子(川瀬・看) 今日はありがとうございました。レビー小体型認知症の方では「ゴミに見える」とか幻視のことはわかっていましたが、実際に聞いてみると本当に大変なことで、皆さんが苦労されていると思いました。この皆さんの苦労を外来でも役立たせていきたいと思いました。ありがとうございました。

製薬会社 今日は勉強させて頂いてありがとうございました。食べられない理由が分からない時はどうされているのかと思っていましたが、食べられない理由はものすごくたくさんあるのだと勉強させて頂きました。集中力がないとか、ゴミに見えるとか、うつ傾向にあるとか、お子さんのために取っておきたいとか、そういういろんな患者さんが抱えている困りごとがあるのだと思いました。私は製薬会社なので薬剤によってどこの部分で貢献できて、どこの部分では貢献できないのかを改めて教えて頂いたと思っていますので、薬剤で違いがあったり、皆さんの対応している部分だったり、いろいろと教えて頂いて、そういうところを認識しながら仕事をしなければいけないと思いました。ありがとうございました。

渡辺美佳子(川瀬・CM) ありがとうございました。ケアマネージャーという立場で食事問題にぶち当たった時、ご家族の負担が急に大きくてなったりすることがありますが、グループホームに入所されている方は、そこに更に家族の意向とかも汲んでいかなければならず、ものすごく縛りがある中で、食事一つとってもいろいろと考えて下さっているのだと改めて感じました。今日は勉強になりました。ありがとうございました。

原島哲志(川瀬・介) 今日はありがとうございました。かえるハウス(サービス付き高齢者向け住宅)は出来てから4年になりますが、食事に対する不満を口にする方は少なかったのですが、2年くらいたってから徐々にいろんな方から食事に対しての不満が出るようになりました。不満を言える人はいいですが、中には言えない人もいると思いますので、そういう事を言える関係になるには時間がかかるのだと感じましたし、不満の言えない人も意識しながら食事に対して考えていきたいと思いました。ありがとうございました。

川瀬康裕(川瀬・医師) 食事は基本的な欲求ではありますが、排泄とは正反対で、恐ろしく多様性があると思いました。例えば環境音はオルゴールがいいとか、家ではゴミに見えるけど隣の人が食べていれば食べちゃうとか、子供にとってあげたいと思っても隣に人形があればしっかり食べてくれるし、私の分からないことがたくさん聞けましたし、食欲がない場合は身体的なこともあれば精神的なこともあり、薬の影響もあり、何が食べたいか、どう見えているかの問題もあるし、本当に多様だと思います。今日の話の内容は教科書なんかよりもずっと勉強になると思います。一つ思った事は、栄養、介護、リハ、看護、医師の方が同じ立場で話をすることも聞くこともあまりないと思うので、本当にそういう意味では素晴らしい場だと思います。一つの現象を見た時、体の問題なのか、精神の問題なのか、見え方の問題なのか、好みの問題なのか、これから団塊の世代はさらに自分の好きな食事がものすごくバラバラです。栄養士さんが非常に協力的だという事に改めて驚きました。カレーの代わりにシチューにしたり、ハヤシライスにしたりとか何でも作ってくれそうでびっくりしました。改めて奥深い問題をとてもいい話し合いをしていただいたと思います。ありがとうございました。


川瀬神経内科クリニック 医師 川瀬康裕 氏

川瀬弓子(川瀬・地域) 三条市の認知症地域支援推進員として参加させて頂きました。今日のお話を聞いて食べることは本当に大事だと改めて思いました。普通の食事を普通に食べてもらいたいですね。皆さんとまた知恵を出し合っていきたいと思います。ありがとうございました。


川瀬神経内科クリニック 認知症地域支援専門員 川瀬弓子 氏

川瀬敦士(川瀬・リハ) 今日は皆さんのおかげで本当に濃厚な話が出来たと思います。ありがとうございました。